昭和初期8ミリ映画 「キング・コング」高校生が同時通訳

視野広がり張り合い生まれ

平成生まれの高校生が、昭和初期の8ミリ映画を同時通訳した。
今月、松本市大手公民館のスクリーンに映し出されたのは、1933年公開の白黒のアメリカ映画「キング・コング」。8ミリフィルムと映写機の所有者は同市蟻ケ崎1の務台秀夫さん(67)。同時通訳したのは「8ミリフィルムなんて見たことなかった」という松本蟻ケ崎高校演劇部の生徒2人と顧問、務台さんの4人だ。
務台さんは4年前から高齢者施設などでボランティア上映してきたが、「キング・コング」は字幕なしの英語版のため、40年間人目に触れずにきた。画面に合わせた同時通訳で初めて上映、生徒たちの協力で久しぶりに日の目を見た。「これからもいろいろな場で8ミリフィルムを活用したい」

節約しながらこつこつ購入

父親の影響で幼いころから8ミリフィルムに触れ、映画も大好きだったという務台秀夫さん。短大を卒業後に就職し、初任給で石原裕次郎主演の「赤いハンカチ」の8ミリフィルム(短縮版)を購入。映写機も月賦で手に入れた。
当時、カラーのノーカット版は初任給とほぼ同じ10万円、10分程度の短縮版でも9800円した。節約しながらこつこつ購入したフィルムは、邦画、洋画、記録映画、アニメなど約80本。しかし時代と共にビデオテープやDVDが主流になり、フィルムと映写機は押入れの奥にしまい込んでいた。
4年前、母親が特別養護老人ホームに入所した。訪ねているうちに他施設で映画鑑賞会を行っていると知り、自分が所有する映画の上映を打診。機械やフィルムの状態の確認も兼ねて試写したところ「昭和の雰囲気もとても良い」との声があり実施が決まった。
当初は1度きりのつもりだった。だが、上映後に涙を浮かべ、手を握って礼を述べる入居者に「こんなことで喜んでくれる人がいる」。自ら「続けますか」と呼び掛け、毎月1度、同老人ホームで上映を続けてきた。
それまでボランティア活動とは無縁だった務台さんだが、その後は依頼がきた他の施設も訪問。上映予告のチラシを作るなど、活動を広げてきた。

蟻ケ崎高演劇部生徒たちが協力

高齢者施設での上映が主体のため、英語版や長編ものは使わなかったが、今年初め、アメリカ直輸入のノーカット版、全編英語、字幕なしの「キング・コング」(100分)上映の話が浮上。英語ができる人の同時通訳を想定し、留学生がいる専門学校や社協登録のボランティアに打診したが難航し、諦めかけていた。
]そんな時、松本蟻ケ崎高校の生徒会役員が文化祭前のあいさつ回りで務台さん宅を訪問。とっさに「朗読、紙芝居、演劇をやる部活がないか」と尋ねたことで事態が動いた。同高校演劇部顧問の輪湖洋輔教諭(45)と「貴重な経験になる」と手を挙げた1年生の田中萌世さん(15)と古谷奈々子さん(16)の協力が決まった。
演劇の中信大会を控えていたこともあり、そろっての練習は当日までできなかったが、同じ映画のDVDを持つ務台さんが字幕を元に台本を作成。古谷さんが2役を担うなど高校生2人を中心に配役し、各自で練習して当日に臨んだ。
上映当日。フィルムを入れ替えるために空いた時間は、田中さんと古谷さんのトークでカバー。「聞き取りづらいところもあり、すみません」と謝ると、来場者から「上手ですよ」「頑張って」の声援と拍手が送られた。
来場した和合直子さん(66、横田)は「興味本位で来てみたが、良かった。徐々に引き込まれた」。輪湖教諭は「部活ではいろんな大人と接する機会は少ないが、いい経験になったのでは」。田中さんと古谷さんも「せりふが飛んだところもあったけど、楽しんでもらえて良かった」「声だけでの表現の難しさや、体を動かす大切さも改めて分かった」と勉強になったようだ。
「やっぱり演劇部の子たちは上手。打ち合わせもなかったのに、フィルム交換の間をつないでくれ、本当に感謝」と務台さん。今回の上映会で「眠っているフィルムの活用に、いろいろな可能性を見いだせた」と話す。
「活動弁士」を交えた上映や他団体とのコラボなど新たな構想も浮かんでいる。「ボランティアのおかげで視野が広がり、張り合いが生まれた」。コロナ禍の収束後、また機材を抱えて施設を訪れる日を待ち望んでいる。