松本で初の個人ワイナリー

おしゃれな街に合うワインを

松本市笹賀に、市内唯一の個人ワイナリー「ガクファーム&ワイナリー」がオープンした。今月、醸造免許が下り、代表の古林利明さん(62)が早速、初仕込みに取り掛かっている。
古林さんは都内の大学を卒業後、個人事務所を立ち上げ、翻訳の仕事に携わってきた。兼業農家だった実家の農地を引き継ごうかと考えた際、頭に浮かんだのがワイン用ブドウの栽培兼醸造家の道だった。
自宅近くの田んぼをブドウ畑に変え、自身で挿し木から育てた苗を植えて3年目。実ったブドウには特別の愛着がある。同市と山形村、朝日村による広域特区「信州松本平ワイン・シードル特区」で認定された第1号の小規模ワイナリー。「この土地らしさを表現できるワインづくりを目指したい」と張り切っている。

苗づくりから奥深さに夢中

奈良井川に架かる今村橋近くの農地が広がる一角に「ガクファーム&ワイナリー」はある。訪ねると、自宅敷地内の車庫を改修した醸造所には収穫したてのシャルドネが箱で積まれていた。
「6、7月の長雨で成育を心配したが8月の晴天で挽回できた。苗から育てたのでとても愛着があります」。古林利明さんは、いとおしそうに目をやった。
50アールの自社畑でメルローやピノノワール、ピノグリ、ビオニエなど10品種ほどを栽培。初醸造はこれらのワインのほか、市内のリンゴを用いたシードルで約3000本を予定している。
塩尻市に実家の生食用ブドウ畑があった古林さん。もともとワインが好きで「この農地を生かして地域に根差した仕事ができたら」と思い立ち、2014年から、小規模ワイナリー開業を支援するために市が開講した「塩尻ワイン大学」を1期生として受講した。
本業の翻訳はエレクトロニクスや特許を専門分野とし、東京やアメリカに顧客を持つ。やりがいのある仕事として取り組みつつ、「栽培や醸造、文化との関わりなど、ワインは想像以上に奥深く、どんどん夢中になった」。
原料の栽培は、挿し木などの作業に手間暇がかかることから苗木を購入して育てる農家が多い中で、苗づくりからスタート。失敗もあったが、1500本の木のうち1300本は自分が苗木から育てた。「松本の気候風土を表現できる一つのきっかけになれば」と古林さん。

隣接する両市望む広域特区

松本市内のワイナリーは、地元農家やJA松本ハイランドなどが出資する「ぶどうの郷山辺」が運営する「山辺ワイナリー」(入山辺)と、大和葡萄酒が運営する「四賀ワイナリー」(反町)があるが、これまで個人経営はなかった。「ガクファーム」の名は、松本がアピールする「岳都、楽都、学都」から取った。
県産ワインに詳しいソムリエで、MGプレスに「わいわいワイン」を連載中の花岡純也さんは、同市笹賀に開いた同ワイナリーを「観光客の誘致として塩尻から安曇野に向かうワインツーリズムの要になる」と指摘。「地域をどのように表現したワインができるか楽しみ」と期待を寄せる。
ワイナリー開業を目指し最初は塩尻市にある実家の畑でブドウ栽培を始めた古林さん。収穫後は同市内のワイナリーに醸造を委託してきた。その後、自宅近くに畑を作り、今回「信州松本平ワイン・シードル特区」で認定を受けた。
特区では酒税法上、製造免許取得に必要な最低製造量を少なくできる一方、原料は特区内で生産したものに限られる。塩尻の畑で収穫したブドウは自身のワイナリーでは使えず、今後も同市内のワイナリーに醸造を委託する。
「隣接する両市で広域特区ができれば、もっとワインを造りやすく、ワイナリー間の連携も取りやすくなり、地域活性化につながるのでは」。古林さんはそう指摘する。
初仕込みの品は、年内にシードルを、来春以降にワインを発売する予定。「松本のおしゃれな街に合うワインも造りたいし、いずれは塩尻の個性も表現したい」。醸造家の目で前を向いた。

【中信地区のワイン特区】
塩尻市の「桔梗ケ原ワインバレー特区」(認定2014年)、池田町、大町市、安曇野市の「北アルプス・安曇野ワインバレー特区」(同18年)、松本市と山形村、朝日村の「信州松本平ワイン・シードル特区」(同19年)