古民家を村民憩いの場に 王滝村「農家民宿&大衆酒BAR常八」

地域の課題に挑戦 新しい風

煙突のあるまきストーブを蒸気機関車に見立て、材木や人々を乗せた森林鉄道をイメージしたアート。前には線路が続き、後ろには山仕事をする職人の姿が描かれている。
かつて森林鉄道が走っていた王滝村の風景を表現したユニークなデコレーションがあるのは、村中心部に10日、オープンした「農家民宿&大衆酒BAR常八」。村内でキャンプ場などを受託運営する合同会社「Rext(レクスト)滝越」の初めての独自施設だ。
築約100年の古民家を改修。室内装飾には、木曽産ヒノキ材や南木曽のろくろ細工、地元で活動するアーティストの作品など、古き良きものから新しいものまで取り入れた。
当面、村民の憩いの場として開放。ゆくゆくは、外国人観光客の滞在型ツアーの拠点としても活用したい考えだ。

「農家民宿&大衆酒BAR常八」は、王滝村役場から徒歩5分ほど。晴天時には木曽駒ケ岳や御嶽山が望める。「常八」は、以前から使われていた屋号を引き継いだ。
家は持ち主が村外に引っ越し、10年ほど前から空き家だった。施設として利用するのは主に1階部分。木曽のヒノキ材を敷き詰めた洋間と、天井の梁(はり)などが見える2つの和室がある。
まきストーブアートは、木祖村で開く芸術祭「木曽ペインティングス」参加アーティストの近藤太郎さん(25、神奈川県出身)が制作した。西洋の壁画などに使われるフレスコ画の技法で初挑戦のため3日間、同所に寝泊まりしながら仕上げたという。
バーカウンターを照らすランプシェードは南木曽産ろくろ細工。木そのものが持つ木目が個性的だ。玄関に掲げた表札は地元の材木店で出たヒノキの端材を利用。「古い家のどこを残し、どこを変えるか。特に、木曽の身近なものをどうおしゃれに表すかを考えた」と、Rext滝越の代表社員、倉橋孝四郎さん(36)。
同施設は当初、Rext滝越が誘致する外国人観光客の滞在型ツアーの拠点として計画した。昨年3月、村内唯一の飲食店「王滝食堂」が閉店したこともあり、村民が集える場所としても整備するため、今春、クラウドファンディングで資金の一部を募った。目標の150万円を超える出資があり、そのうちの45%が村民だった。
準備に取り掛かった矢先に新型コロナウイルスが流行、今年は外国人の需要を見込めなくなった。倉橋さんは「コロナでも計画に迷いはなかった。村民に満足してもらえるようなことをじっくり考えられ、逆に良かった」と振り返る。
オープンを前に開いた内覧会には、支援した村民が次々に来場。木谷貫志さん(73)、康子さん(72)夫婦は「古民家の趣が残っていてほっとするし、若いセンスが空間のあちこちに光っていていいですね」。
村のドングリを用いた郷土料理研究の第一人者・瀬戸美恵子さん(72)は「店のメニューに王滝の名物も出してみたら」とアドバイス。「飲食店のない村が寂しかった。今度はここで同級会ができてうれしい」と喜んだ。
当面は金~日曜の夜に「大衆酒BAR」として営業。11月からは駒ケ根市のまきストーブ販売店と提携し、1泊2日で森林整備とまきストーブ料理などを体験するツアーも受け入れる。村民の意見を参考に運営を続け、外国人観光客の再来に向け準備を進める。
Rext滝越社員の杉野明日香さん(37)は「気軽に寄れる場所として幅広い世代の人が集まり楽しんでもらえればうれしい」。倉橋さんは「地元の支援をいただいて始めることができ、感謝している。地域の課題に向き合い、新しい風を吹かせられるよう挑戦していきたい」と話している。