様変わり秋模様 涸沢紅葉劇場

奥穂高岳(3190メートル)へ向かう登山道沿いの紅葉をマスク姿で撮影する登山者。大自然の営みはコロナ禍とは関係なく、涸沢カールを秋色に染め通り過ぎていく=4日午後0時28分

山岳紅葉の鮮やかさで知られる北アルプス穂高連峰の涸沢カール(2300メートル)。新型コロナウイルスの災禍に見舞われたこの秋は、山小屋もテント場もマスク、マスクと、これまでにない異様な雰囲気が漂っていた。3~6日、山岳でのコロナ感染を恐れながらも、できる限りの防止策を講じながら営業する涸沢ヒュッテとテント場の秋模様をカメラで追った。

目立つマスク姿…コロナ対策に全力

標高3000メートルの稜線(りょうせん)に抱かれた氷河圏谷の秋。その絶景は、全国屈指の人気を誇る。これまでは秋ともなると、小屋泊は3密はおろか、すし詰め状態が当たり前。コロナ禍は、そんな山小屋を容赦なく直撃した。
3日午前11時、ヒュッテに到着すると、山口孝社長(72)は開口一番、「ソーシャルディスタンス(社会的距離の確保)を重視しながら対策に取り組んできた」。館内を回ってみた。6人から10人用の相部屋の内部をコンパネで仕切ったり、ロールスクリーンを取り付けたりして個室状態に。全てのスペースに発光ダイオード(LED)などの照明が付けられていた。
「北アルプス山小屋友好会が策定した感染拡大防止対策の統一ガイドラインに合わせて営業しています」と小林剛支配人(57)。宿泊は完全予約制で人数は定員の半分程度に、手指の消毒を徹底して館内ではマスク着用、食事や就寝時の距離を確保―が主な指針だ。

3日午後2時。予約済みの登山客が次々到着。受付では、ビニールのカーテン越しに一人一人の検温に忙しい。この日の宿泊者は満員で120人。定員の半分の人数だ。6割が関東、3割が関西からの客という。
午後3時。展望テラスがにぎやかさを増す。外売店に並ぶマスク姿の列ができた。目当ては名物のおでんとビール。気付くと、以前は陶器やガラス製だったコーヒーやラーメンなどの容器が全て使い捨てに替わっていた。これもコロナ対策の一環という。
午後5時。新館大ホールで夕食が始まった。従業員が噴射するアルコールで手を消毒した後、対面を避け約2メートル距離を空けた状態でテーブルに着いた。食事は3交代。時間はかかるが、囲いのついたてやビニールカーテンがないので圧迫感はない。

涸沢ヒュッテでは、7月中旬の営業開始に向けて従業員の新型コロナへの危機管理意識を高めるため、6月からミーティングを開催。客室の床や壁はアルコールを吹き掛けて消毒、枕カバーや襟布を不織布に替えて客ごとに交換―など、作業内容、対策を細部にわたり検討してきた。
小林支配人が、緊急事態に備えた防護服、フェースシールド、帽子、手袋を披露してくれた。従業員全員の数が用意され、隔離部屋もある。
4日に宿泊した栃木県佐野市の大島富子さんは「3密を心配して来ましたが、個室状態で安心感があり快適でした。下界以上にコロナ対策への気配りをしているヒュッテの皆さんに感謝です」と話した。

1人用が目立ったテント場

3日午後。テント場の使用申し込みの受付にマスク姿の長い列ができた。しばらくすると、赤、青、黄色、白、ピンク…と、一夜を憩うカラフルな“涸沢団地”が出現した。
この日に受け付けたテント数が963張りなのに対し、利用した人は1298人。密を避け、いかに1人用テントを利用する人が多いか分かる。この秋のテント場は、若者が目立った。その85%は県外からだ。
東京都から訪れた男性(26)は「コロナ対策で初めてテントにしました」とVサイン。テント泊で来た名古屋市の女性(30)は「春も夏も外出を控えてきた。憧れの涸沢の秋に初めて出合えて幸せ。癒やされ生きる力が湧いてきました」。
暮れなずむカールに浮かび上がる色鮮やかなテント場の夜景。その光景は、「コロナに負けないで頑張ろう」と叫ぶ人類の悲願の光彩のように映った 。
(丸山祥司)