【像えとせとら】兎田旧跡のウサギ(松本市里山辺)

徳川家が正月に振る舞う縁起物に

中世に林城(松本市里山辺)などを拠点に松本一帯を治めた小笠原氏。その菩提(ぼだい)寺、廣澤寺(同)の参道前に広がる水田の一角に、2体のウサギの像がある。ひょっこりと顔を出したような姿は愛らしく、「山から下りてきたの?」と話し掛けたくなる。
傍らに「兎田旧跡」と書かれた石碑と、この地に伝わる「兎田伝説」の説明板が立つ。江戸幕府を開いた徳川家康の先祖に当たる世良田有親・親氏父子が諸国を放浪していた際、林郷に住む旧知の林藤助(小笠原光政)を頼り、藤助は野ウサギを狩り、吸い物にして正月に振る舞った|というもの。
徳川将軍家はこの伝説を「家の運が開けた吉事」とし、正月に諸侯にウサギの吸い物を振る舞うのを習わしにした。藤助がウサギを捕った場所が後に「兎田」と呼ばれ、幕府は税の徴収を免じて保護したという。
石碑は1933(昭和8)年4月、地元住民4人が発起人となり建立。ウサギの像は15年余り前、廣澤寺の前住職、小笠原隆元(りゅうげん)さん(82)の発案で、市内の石材店に依頼して作った。
藤助は、松平家を興した親氏に請われて三河へ赴き、林家は最古参の家臣に。江戸時代には旗本として江戸町奉行などを務め、11代将軍家斉の時に若年寄になり、大名にも昇格もした。林家も、ウサギに感謝し続けたに違いない。