2020.11.19 日本地域情報コンテンツ大賞・タブロイド部門で2年連続優秀賞

発達障害の子どもと寄り添い歩み10年

子どもも大人も手を取り前へ

1人では抜けない大きなカブ。困っていたおじいさんに、1人、また1人と協力者が増え、皆で力を合わせてカブを抜きました―。ロシアの民話を描いた絵本「おおきなかぶ」の物語のように、いろんな人が周囲から加わることで物事が成し遂げられる。
安曇野市穂高有明の児童デイサービス事業所「ケアガーデン結家(ゆいや)」。スタッフ、保護者、作業療法士、学習指導員など、それぞれが「おおきなかぶ」のように力を合わせ、発達障害の子どもたちの心に向き合ってきた。
学習障害、注意欠陥多動症(ADHD)、アスペルガー症候群…。さまざまな個性に対応しながら歩みを進めて今年で10年。新たな知見や支援を得て、次のステップを踏み出す。

ペース合わせ療育子どもの居場所に

ケアガーデン結家は林の中に建つ木造の一軒家だ。小学1年生から高校生までが登録。各自が週に1~3回ほど通い、学習支援や体操、脳を活性化させるための臨床美術(クリニカルアート)などを体験。代表の浦野典子さん(51)や保育士、専門相談員らと過ごしている。
一見、自然な雰囲気で過ごすように見える4人の小学生クラス。だが、「各自学校も違うしコミュニケーションも苦手。最初は個々でいたけれど、今は元気のない仲間を心配できるチームになった。これはとてもすごいことなんです」と浦野さんは話す。
一人一人のペースに合わせ、その時々に必要な療育を心掛けてきた10年。今年は新型コロナウイルスの影響で最も苦しい年だったという。普段と違う生活が子どもたちのストレスになり精神的にとても不安定に。外出自粛期間は、スタッフが家庭訪問をしながら療育を続けた。
そのような中で、目標を見いだしたのが、今月1日に開いた結家の一大イベント「こどもまつり」だ。例年、地域住民を施設に招き活動発表やカフェなどでもてなしてきたが、今年は一般公開はやめて関係者のみで開催。子どもたちは作文や体操、手話、アートなどを堂々と発表。スタッフは「おおきなかぶ」の劇を披露した。初の試みの親子運動会では、親子で笑い合いながら体を動かした。
コミュニケーションが苦手な中学2年生の長男の母親(安曇野市)は「学校では友達とうまく話せない子だが、ここには居場所がある。親も同じような悩みを持つ人と話ができ、気持ちが救われました」と話した。

地域の支援拡大へ「コグトレ研究会」

結家は、県外の知的障害者施設で指導員をしていた浦野さんが開設。2010年11月、県から障害者自立支援法に基づく児童デイサービス事業所の指定を受けた。受け入れる子どもは1日当たり10人。4年目から満員が続いており、来年度までキャンセル待ち状態だ。
地域ぐるみの支援を広げるため本年度、「長野コグトレ研究会」を立ち上げた。「コグトレ」は、著書「ケーキの切れない非行少年たち」で知られる児童精神科医の宮口幸治さんが考案した認知機能強化トレーニングだ。
丸いケーキを3等分できない子どもは認知機能に問題を抱えているとされる。コグトレは、記入式の教材と体を動かす作業で基本的な認知能力を高めていく手法。「対人スキルの向上」「基礎学力の土台作り」「不器用さの改善」の3方向からアプローチするプログラムは、結家が以前から行ってきた内容と重なる。
結家は今後、子どもの支援を行う福祉、教育、医療に携わる人を対象にコグトレの研修会を開くほか、保護者向けの体験会も企画していく。

試行錯誤繰り返し活動の幅広げたい

コロナ禍による社会的・経済的不安など、発達障害の子どもたちを支援する大人の側も心に余裕がない時代。大人も休んだり、弱音を吐いたり、あるいは助け合って生活する姿を子どもたちに見せたりすることに意味がある―。浦野さんは「誰もが“いるだけで安心する存在”なんだということが重要」と指摘する。
活動を始めて11年目に入った結家。これからも試行錯誤を繰り返しながら、発達障害児の支援活動を「点」から「面」へ広げていく目標に挑む。