2020.11.19 日本地域情報コンテンツ大賞・タブロイド部門で2年連続優秀賞

浅間温泉の老舗旅館リニューアル 地域再生目指すホテルへ

今夏、松本市浅間温泉の2つの老舗旅館がリニューアルし、新しいホテルとしてオープンした。
「松本十帖(じゅうじょう)」と「onsen hotel OMOTO」。当初は新型コロナウイルスの影響で客足が伸び悩んだが、秋以降、国の観光支援事業「GoToトラベル」の効果もあり予約は順調だ。
「松本十帖」は、旧「ホテル小柳」の運営を宿泊施設運営の自遊人(新潟県南魚沼市)が引き継ぎ、施設を大胆に改装。「onsen hotel OMOTO」は、旧「ホテルおもと」を浅間温泉の若手経営者らで設立した観光まちづくり会社「WAKUWAKU浅間温泉」が引き継ぎ、経営再建に取り組む。
それぞれ異なるコンセプトで、浅間温泉を活性化させようと動きだした両ホテルを訪ねた。

温泉街の活性化に向けて

壁面にずらりと並ぶ書籍。風呂場を改装した室内には、湯船やタイル、カランなど、かつての面影が残る。
2棟からなるホテル「松本十帖」が設けた「松本本箱」棟は、書籍販売とホテルを融合させたデザインホテルだ。約1万冊以上の写真集や良書、絵本をそろえる。書籍の販売は好調で、1人当たりの購入冊数、単価は一般書店の3倍という。
隣は家族連れ向けの「小柳」棟。1階には生活雑貨や地域ゆかりの商品を扱う店とベーカリーが併設する。徒歩3分に古民家を改装したカフェ「おやきとコーヒー」もある。客室は2棟合わせて38室あり、全室に露天風呂を設けた。
運営する「自遊人」は、新潟県南魚沼市や滋賀県大津市などに宿泊施設を展開する。松本は4施設目で規模は最大。岩佐十良社長(53)は「松本の知的文化レベルの高さと、『開湯1300年』という浅間温泉の歴史に再生の可能性を感じる」と話す。
観光客と住民が共に利用できる施設を目指し、当初はホテルとシードル醸造所、周辺に2つのカフェの開設を予定していたが、新型コロナの影響で全施設の開業には至っていない。出足は遅れたが、ホテルの稼働率は開業当初の想定通り(10月末)という。コロナ禍が落ち着いたら、住民への日帰り利用もPRする予定だ。
空き家が目立つ温泉街で近所の古民家をカフェに改装するなどして周遊性を高めたい考えで、宿泊客向けの浅間温泉ガイドも取り入れていく。岩佐社長は「街を活性化するためにホテルがどのような役割を担えるのかがコンセプト。再生には他の地域にはないオリジナリティーと創造性が大切。地域に理解してもらいながら共に発展し、15年後には大勢の人が歩く温泉街を目指したい」と話す。

「onsen hotel OMOTO」は、夕食を出さず地域で食べる「泊食分離」で温泉街の活性化を試みる。客室は従来の和室のほか、ベッドを備えた和洋室、ペットと宿泊可能な部屋など8種類38室があり、最大定員は約180人。北アルプスが望める展望大浴場と露天風呂もある。
温泉旅館の良さとホテルの手軽さを兼ね、滞在しやすい価格帯に設定。開業直後の7月下旬の連休、8月のお盆期間、9月の連休は客室の8割が埋まり、10、11月の週末はほぼ満室の状況が続いている。
秋からは地域の飲食店と連携した夕食プランをスタートさせた。連携店の一つで、日帰り温泉「枇杷(びわ)の湯」に併設する「日本料理草創庵」は予約が好調で、今月末までの週末は満席だ。
コロナ禍で打撃を受けた同店。プランには食事と枇杷の湯の入浴が含まれている。「1度に2カ所の料理と温泉を楽しめていい、とお客さんに好評。温泉街のにぎわいにもつながる」と、店主の草間民安さん(64)。
「onsen hotel OMOTO」の岡嘉紀社長(43)は「浅間温泉の魅力は市街地に近いこと」と指摘。さらに「美術館や音楽など文化が根付いており、センスのいい催しも多い街で温泉に入りながら滞在を楽しんでもらう旅を提案したい」とする。
長時間勤務になりがちな宿泊業の従業員の勤務時間短縮など、雇用条件も改善した。全国各地で旅館を再生させてきた岡社長。「再生成功の鍵は『人』。関わる人が地域で長期間にわたって熱意を持ち取り組むのが重要」と強調した。