【像えとせとら】希望の碑(安曇野市三郷明盛)

安全運転訴える石の茶せん

民家の庭の道路沿いに、茶せんの形をした石のモニュメントが、台座の上に置かれている。高さ1メートルほど。通り掛かるたびに気になり、思い切って家人に尋ねてみると、交通事故の怖さや安全運転の大切さを訴える碑だという。茶せんが?
同市穂高有明の旅館「中房温泉」を営む百瀬孝仁社長(64)宅で、茶せんの横に説明書きが。自宅前の交差点で交通事故に遭い、亡くなった百瀬さんの母、美智子さん(享年83)のために建てたという。
美智子さんは長年茶道に親しみ、表千家で「乱飾(みだれかざり)」という高い位の免状を受ける腕前だった。百瀬家に嫁ぎ、中房温泉のおかみとして複数の旅館やヒュッテなどを取り仕切った。
亡くなったのは、初めての内孫の誕生を控えた2010年の12月。山を下り、孫と一緒に過ごすのを楽しみにしていた矢先だった。「事故は忘れられてしまう」という知人の言葉もあり、百瀬さんは碑を建てることにした。
美智子さんが生前、「お墓は茶せんの形にしたい」と話していたが、かなわなかったこともあり、この形にした。「希望にあふれていた時期になくなったから『希望の碑』と名付けた」と百瀬さん。
説明を読み、手を合わせる人もいるという。百瀬さんは「母の命を奪われ、怒りと悲しみしかない。でも、冥福を祈ってくれる人がいるのは(母にとって)よかった」としみじみ。