不思議な虫の造形写真 たけうちかずとしさん個展

写真で身近な自然に関心を

「上を見てみませんか?子どものころ遊んだ虫たちやおもちゃが見えますよ」
台に寝転び、そう呼び掛けるのは、写真家、たけうちかずとしさん(57、松本市征矢野2)。頭上にあるのは、クワガタやチョウなどの虫、竹とんぼ、けん玉など遊び道具が写し出された自作の「格(ごう)天井」だ。
安曇野市豊科南穂高の田淵行男記念館で開いているたけうちさんの個展「五分の魂」の会場。壁には、カマキリ柄のマッチ箱の上を歩き回る子どものカマキリたち、「くまんばちの飛行」の楽譜上を飛ぶキムネクマバチなど、ちょっと不思議な造形写真が並ぶ。
「カメラは絵筆。面白い写真がきっかけで、虫に興味を持ってもらえれば」との思いから生み出した作品群という。

面白い虫の写真 興味のきっかけに

たけうちかずとしさんは東京生まれの横浜育ち。子どものころから写真好きだったが、大学は教育学部で美術を専攻した。その後、別の大学の大学院で森林などの環境教育学も学んだ。長野県に移り住み、小中学校で美術教諭を務めていた時期もある。
教師をしていた時に気付いたのは、虫嫌いの子どもが増えてきたこと。そこで、面白いアートとして虫の写真を作れば、興味を持ってくれるかもしれないと考えた。20年ほど前のことだ。
二科会の藤森順二さん(現・同会写真部理事)に師事し、作品は写真雑誌にも掲載されるようになったため、2014年に教職を辞した。虫や植物、動物などをモチーフとするシュール(超現実的)な静物写真に専念し、全日本写真連盟など主催の「第74回国際写真サロン」で入賞。16年には「第5回田淵行男賞」でフォトコン賞を受賞した。今回の展示会場にはその際の作品を軸にした22点が並ぶ。

本物の虫の姿にこだわりを持ち

たけうちさんのこだわりは、画像合成をしないこと。「作品はシュールであっても、主役の虫はリアルでありたい」と、生きている虫か、自分で作った標本を使う。そのため、1つの作品を撮るのに多くの時間を費やすという。「本物の虫の姿から自然科学や身近な自然に関心を持ってもらいたいので」
スタジオは松本市奈川に借りている小屋。その庭には虫を育てるための畑も設けた。
アイデアが浮かぶとすかさずメモを取る。「カメムシとマスク」「松本手まりにジョロウグモ」など、文字に絵を添えたメモ書きも今回展示した。題して「作品の卵」。

楽しめるように 考えさせる工夫

作品はただ面白いだけでなく、考えさせるものも多い。人々に好かれるナナホシテントウはハートのエースのトランプに置かれている。「自然が作った最強の防御と攻撃の形だと思うので」と、オオスズメバチはジョーカーの中心に置いた。
蚕の幼虫を新幹線に見立て、ミニチュアのレールの上を歩く場面を撮った作品も。かつて教えた小学生の言葉がヒントになったといい、子どもの感性を生かした作品だ。虫の形だけが空白になったプラモデルのキットの写真もある。「虫はどこへ行ったのか?虫がすめない世界は人間も住めない世界なのでは」との暗示を込めた。
より楽しめるようにと、会場では森の中で録音した音を流し、外には虫の写真を棒に貼って草地に立てた「不自然探し」なるコーナーも作った。

個展は2月7日までだが、現在の展示は1月11日まで。13日からは近作に入れ替える。午前9時~午後5時。11日以外の月曜と12月28日~1月4日、12日は休館。高校生以上310円。同記念館 ℡0263・72・9964