人生変えた“牛”との出合い 大町市出身・丸山さん

牛をいとおしそうに見つめ、頬を寄せる。「牛も人の顔を認識してなつくんですよ。みんな個性があり、意思疎通できた時はうれしく、本当にかわいい」
そう話すのは、大町市出身の丸山智子さん(29)。かつて不登校で人との関わりを避けていたが、通信制高校時代の牛との出合いが、人生を大きく変えた。
のんびりしたイメージがある牛。だが、丸山さんは「実は頭が良く、コミュニケーションができる動物。見た目とのギャップも面白い」とぞっこんだ。
世界を揺るがす感染症に人間が翻弄されている間も、牛たちはゆっくりと草をはみ、体を横たえる。牛をこよなく愛する丸山さんが目指す「理想の酪農」とは。

自然と共生し牛が過ごしやすい酪農を

丸山さんが愛する牛たちと過ごしているのは、根羽村にある山崎志穂さん(38)の農場。丸山さんは牛に餌をやったりブラッシングしたり。牛と触れ合い、生き生きとした表情を見せる。
村の「地域おこし協力隊」を経て肉牛と乳用牛を飼う山崎さん。「まだ生計を立てられるレベルではない」と言うが、丸山さんにとって、女性1人で牛を飼う山崎さんは「情報交換したり悩みを相談したりできる先輩」だ。
村内には、丸山さんが持続可能な取り組みとして関心を持つ「山地(やまち)酪農」を実践する農家がある。木の切り株が残り、笹が生い茂る山の傾斜地を牛が自由に移動しながら草をはむ。自然交配のため、去勢していない雄牛もいる。
丸山さんは「経営面では現実的な課題もあるが、環境と調和してアニマルウェルフェア(快適な環境で飼うことでストレスや病気を減らすという考え方)を実現できていて魅力的。何より、森と牛が美しい」と話す。

福島県で奉仕活動牛や食に強い関心

大町市で生まれ育った丸山さん。家庭の事情で引っ越した村の小学校になじめずいじめに遭い、小学5年生で不登校に。図書館に通ったり、近所の親戚の農作業の手伝いをする自称「アクティブな引きこもり」生活を送っていた。
社会復帰の大きな一歩となったのが24歳の夏。合宿で免許を取るため気が進まないながらも向かった新潟で、初めて家族のように信頼できる大人に出会い、かたくなだった心が解けていった。学力を付けたい、チャレンジし直したいと、その年の秋には通信制の信濃むつみ高校(松本市)に入学。学力だけではない学びや、個性豊かな友人との交流から、多くを吸収した。
牛との出合いもこの頃。震災ボランティアで出掛けた福島県浪江町で、被ばくした牛を育てる「希望の牧場・ふくしま」代表の話を直接聞き、農家の苦悩や怒りを全身に感じ、強い衝撃を受けた。牛や食、環境などのテーマに関心を持つようになり、自分なりに勉強を進めた。

全国各地で修業中山地酪農に出合い

観光牧場でのアルバイトで本物の牛と触れ合い「牛に目覚めた」丸山さん。乳牛の飼育から乳製品の加工生産までを手掛ける八丈島の酪農家で研修した際、自らの甘さを指摘され本気になった。苦手だったSNSも始め、情報収集や発信も開始。「山地酪農」に出合ったのは、そんな時だった。
山地酪農は、一年中傾斜地に牛を放す完全放牧で、下草を牛が食べることで、生命力や根の強い野芝が成長し、ひいては災害時にも崩れにくい強い山にもなる循環型の酪農。丸山さんは岩手県内の先駆的な農場で研修、多くの刺激を受けた。昨春には「酪農を基礎から学びたい」と県農業大学校に入学。「家畜人工受精師」の資格も取った。
勉強していく中でいろいろな矛盾も感じてきた。「生産性向上のために改良が施され、牛の寿命が縮まっていく。必要以上に人間が介入することで牛に負担がかかり、障害も出る。そして廃用牛として処分される」。効率を優先してきた現代の酪農、そしていまだ男性優位の世界にも疑問を感じている。
「いろんなコンプレックスがあったが、受け入れてくれる人がいて、牛と出合って、自分は180度変わったと思う」と語る丸山さん。
現在、就職活動中。自然との共生やアニマルウェルフェアなどの理念を持つ牧場への就職を目指す。「食品衛生の資格も取り、生産から加工、販売までを手掛けてみたい」。丑年にさらなる飛躍を目指す。