数々の試練乗り越え肉牛飼育  木曽町開田高原・山村牧場

家族で受け継ぎ約半世紀 期待も担う20歳

木曽町開田高原西野の山村牧場。牧場主の田中昭人さん(76)の父が1952(昭和27)年に現在地に入植し、73年から肉牛の飼育を始めた。数々の試練を乗り越え、半世紀近く続いてきた牧場。令和になり、昭人さんの孫の詩乃さん(20)がバトンを受け継ぐ。
山村牧場のある場所は入植当初、電気も通っていなかった。詩乃さんの曽祖父が苦心して開墾、ヤギや羊、乳牛の飼育から始めた。家畜の堆肥で土を肥やし、白菜などが育つように。野菜農家として波に乗りかけた頃、根(こん)瘤(りゅう)病が畑を襲った。「明日から食べていくものがない」。崖っぷちに立たされ、肉牛の飼育を始めた。
その資金を確保するため、昭人さんは外に働きに出た。妻のムツ子さん(71)は牛を飼い、子育てと家事をこなし、昭人さんの両親の介護も担った。「当時はそんなこと当たり前でしたよ」と笑う。
昭人さんが定年退職して牧場の経営に専念できるようになり、新しい厩舎(きゅうしゃ)の建設に着手した矢先、今度は牛海綿状脳症(BSE)問題が発生。全国の牛飼い仲間と学び合い、励まし合いながら逆風をしのいだ。そして今回のコロナ禍。昭人さんは年齢や身体のことも考え、廃業に向けて少しずつ牧場を片付けることにした。
そんな時、「せっかくここまで大きくしたのに、もったいない」と声を上げたのが詩乃さんだった。幼い頃から厩舎の掃除などを手伝う際に曽祖父の苦労話を聞いて育った。経営を引き継ぐことを決め、勤め先を辞めた。
今は祖父母から牧場の仕事を学んでいる。先頃、牛市に3頭の子牛を出荷し、堂々と1人で牛を引いた。同業者や市場の関係者に顔を覚えてもらうことも大切な仕事だ。
現在、18頭の親牛と11頭の子牛を飼育している山村牧場。そこの若き「4代目」は、かつて300軒ほどあり現在は約10軒に減った開田高原の畜産業の期待も担っている。