世代を超えて交流 音楽でつながろう

塩尻市大門一番町、商店街のメイン通り。骨董(こっとう)店の看板が残る店ののれんをくぐると、突如、レコードとCDがずらりと並ぶ異空間が現れた。
「塩尻音盤館」。あるじは藤原正道さん(65、広丘高出)だ。若い頃はライブハウスに通い詰めるなど大の音楽好き。空き店舗を借り、レコードやCDを聴き、交流もできるスペースを2019年6月に立ち上げた。
置かれた音源は約600枚。ジャズ、ソウル、ロックに歌謡曲と、時代もジャンルも幅広い。CDを持参して館内でかけてもらうこともできる。
店ではなく趣味のスペースのため、料金は無料。いろいろな人たちが世代を超え、音楽を「肴(さかな)」に盛り上がれる「町のジュークボックス」を目指す。

塩尻の活性化にもつなげたい 塩尻音盤館 藤原正道さん

新しい音の世界情報交換の場に

日曜日。塩尻音盤館に数人の姿があった。1950年代のR&B(リズムアンドブルース)の心地よいグルーブ感をバックに、2回りほど年齢の違う男性が語り合う。「これ、俺が若い頃にディスコで流れていたわ」「そうなんですか、テレビ番組のテーマ曲で知っています」
昨年近所に引っ越してきて週に1回は立ち寄るという男性(69)は「たまたまのぞいたら不思議な空間で、安心感があった。音楽だけでなく幅広い情報交換の場として重宝している」。この男性と一緒に音楽を楽しんでいた佐藤孝亮さん(51)は「東京から単身赴任中でなかなか帰れないので、週末の居場所として助かる。知らない音楽を教えてくれ、その場で聴けるのがうれしい」。音を媒介に人と人とがつながっていく。
藤原さんがとっておきのレアなレコードを2人に出してきた。ローリング・ストーンズの「STICKYFINGERS」。「ジャケットのデザインがアンディ・ウォーホルで、中央には本物の金属製ジッパーが使われているんだよね」。藤原さんの熱のこもった解説が続いた。

ロックやジャズ人生支えた音楽

藤原さんは松本市出身。関西の大学を卒業後、東京で銀行員となった。忙しくストレスの多い日々の中、誘われて足を運んだジャズピアニスト山下洋輔さんのライブで、すっかりライブの虜(とりこ)となった。
「とにかくハチャメチャな演奏で、こんな音楽があるのかとびっくりした。パワーがすごかった」。週末はジャズライブハウス「新宿ピットイン」に足しげく通い、平日はジャズ喫茶へ。多くの音楽を浴びるように聴いた。
仕事が忙しくなり、なかなか生演奏を聴きに行けなくなると「ライブを追体験するために」レコードを買うようになった。バブル崩壊で銀行員の仕事に限界を感じ、転職のため塩尻へ。ライブに行く機会はますます減り、逆に音源はレコード、CDと変わっても増え続け、今では合わせて2000枚ほどになった。
父の介護のため早期退職。8年前に父を看取(みと)った後は家にこもりっきりになり、一時は人生の目標を失いそうになったという藤原さん。そんな藤原さんを支えてくれたのも、大好きなロックやジャズをはじめとする音楽だった。家族に気兼ねせず、大音量でゆっくり音楽を楽しめる場所を|と、塩尻市内で物件を探すうちに、現在の空き店舗が見つかった。
骨董屋だった店舗を居抜きで借り、作り付けの棚にオーディオや藤原さんイチオシのレコード類をディスプレー。オーディオは「ジャズファンだとこだわって何百万円もかける人もいるが、僕はあくまで生演奏が好きなので」とこだわらず、家庭用のセットを置く。
奥に4畳半ほどの小上がりと本棚代わりになるスペースがあることから、オープン当初は週末に県内7つの古本屋と協力し、「ウィークエンドブックストア」と称して古本を販売。「今後は母親の集まりやミニセミナーの開催など、活用したい人がいれば積極的に開放したい」と話す。
塩尻市図書館と共同で高齢者向けの「レコード交流会」などのイベントも。趣味の延長で開いたサロン的なスペースだが、通りを歩く人の少なさに驚き、街の活性化にもつながればと願う。
「塩尻にも魅力的な場所がもっと増え、松本に行かなくても済むようにしたい。認知度を上げ、誰もが立ち寄れるスペースにして付加価値も付け、違う展開もしていきたい」と夢は広がる。
土、日曜が正午~午後5時、平日は予約制で開放。小上がりのみの利用も受け付ける。藤原さん電話53・4046