美ヶ原高原王ヶ頭構図描いて12年 鹿とカノープス撮った!

南アルプスの山並みの向こうに光跡を残すカノープスと、野生のホンシュウジカの群れが共演。
市街地の明かりは諏訪市から茅野市方面=2020年12月7日午前0時33分

国立天文台渡部さん「驚きの1枚」

松本市の美ケ原高原王ケ頭から、南天の地平線付近に輝く南半球の1等星カノープスと、野生のホンシュウジカが共演する光景を、12年前の冬から脳裏に描いて撮影に挑んできた。昨年12月7日、日付が変わった厳寒の深夜に、ようやく撮影に成功した。近年撮影した「信州のカノープス」と合わせて紹介する。
鹿との共演について、国際天文学連合副会長で国立天文台(東京都三鷹市)副台長の渡部潤一さん(60)は「日本で初めて捉えた驚愕(きょうがく)なカノープスの光景。見たことも聞いたこともない、奇跡の1枚」と話す。

気合の撮影意欲

県内では見ることさえ難しいカノープスと、野生の鹿とのコラボレーション。至難の撮影を思い立ったのは「世界天文年」2009年の夏。記者が長野市立博物館で開いた「信州のカノープス」写真展の会場での、渡部さんとの会話からだった。
「カノープスと野生動物を一緒に撮った写真は、世界的にも珍しい」と渡部さん。湖面近くで赤味を帯びて移動するカノープスを撮影した1997年12月の信濃毎日新聞掲載「木崎湖の竜燈伝説」と同様に、「その光景を撮るのは俺だ!」と気合が入った。

撮影地の選択

脳裏に描いたのは、背景にカノープスが光跡を残し、手前に鹿の群れがいる構図。霧ケ峰、高ボッチ高原、鉢伏山…。カノープスが見える夜のロケハンが続いた。撮影条件やアクセスの利便性、厳寒の夜の安全面から、撮影地を美ケ原高原の王ケ頭と決めた。

難易度の高い撮影

撮影は09年の初冬に始めた。カノープスの出現時刻に合わせ、鹿が出没するタイミングを調査した。その結果、鹿は真夜中も群れで移動していることが分かった。
撮影方法での失敗も度重なった。当初は100メートル先の鹿を写し込むため、望遠ストロボを用意。カノープスが現れる約40分前、群れが近くまで来ていたのに気付かず、ピカッ!テスト露光の強烈な閃光(せんこう)に驚き、以後撮影ポイントの「鹿道」に、その冬は一度も現れなかった。
15年1月、月明かりの雪上に、11頭の群れが浮かび上がる絶好のチャンスが訪れた。しかし、今度はカノープスが現れず、無念に終わった。全ての撮影条件が合わなければ、共演は撮れない。何年も続いた失敗に、撮影意欲はさらに強くなった。
昨年12月6日午後11時。野生動物を撮影するための、迷彩柄のブラインドを張らずに身にまとい、小さなカラマツの根元に潜んでカメラを構えた。7日午前0時半。南アルプス仙丈ケ岳の向こう側にカノープスが現れると同時に、市街地の明かりを浴びてたなびく霧を背景に、6頭の鹿がシルエットで浮かび上がった。

最先端技術で挑む

撮影は最新のデジタルカメラの多機能を操作し、色温度も調整。減光フィルター(ハーフND)を効果的に使用しながら、多重露光の「比較明合成」(複数枚の画像の中から明るい部分を採用し、1枚の写真に合成する方式)で挑んだ。
12年間抱き続けてきた夢の構図は、幸運にも大自然の方から近付き、撮らせてくれた。撮影後、南アルプス南部の山並みの向こうにカノープスが見えなくなるまで、感謝しながら見送った。

【カノープス】
南半球の「りゅうこつ(竜骨)座」の星。地球から約310光年の距離にあり、全天で「おおいぬ座」のシリウスに次いで2番目に明るい恒星。松本市からの仰角は、最も高く昇る南中時刻で約1.6度。冬だけ南天の地平線付近に現れるが、短時間で消えてしまう。中国では「南極老人星」などと呼ばれ、見た人は長生きできるともいわれる。

(丸山祥司)