第一線の作家6人塩尻で滞在制作「ANA meets ART “COM”」

街に活力アートの持つ可能性

塩尻市中心部にある市民の“居場所”、市民交流センターえんぱーく(大門一番町)の3階に昨年12月半ば、30点を超すアート作品がひっそりと現れた。
全日空などを傘下に持つANAホールディングス(東京)が企画した展示会「ANA meets ART “COM”」。首都圏を拠点に第一線で活躍する6人の作家が塩尻に1~2週間滞在して作った水彩画や造形、写真、映像作品などが並ぶ。展示は2月7日まで。ほかにも鳥取市や広島県三原市でも同時開催中だ。
日常の空間に突如現れたアートは、市民に何をもたらすのか|。作品に触れたりアーティストと交流したりした市民、滞在制作(アーティストインレジデンス)の窓口を務めた市民有志の声から探ってみた。

街の隠れた魅力気付かせる作品

えんぱーくの3階は至る所に机と椅子が置かれた「市民サロン」で、利用者が勉強、仕事、読書などをして自由に過ごせる場所。作品はフロアの壁や壁際に点在する形で展示。大々的な紹介はなく、作品は空間にすっと溶け込んでいる。
赤羽修さん(63、北小野)は、塩尻に移住した人の「お気に入りの景色」を写した写真作品を見ながら「よそから来た人は、地元の人と全然違うところを見ているんだなあ」と興味津々。「山に囲まれた場所にも魅力はあるんだと、ここにある作品たちは気付かせてくれる」と話した。

「ANA meets ART “COM”」には多分野の作家が参加する。フジロック・フェスティバルへの出演歴もあるバンド「シャムキャッツ」(昨夏解散)の夏目知幸さんは、塩尻市と辰野町の両小野地区に2週間滞在。集落を包み込む「光」に感性を刺激され、青空、紅葉、野沢菜、薪などの映像をミラーボールに投射させる手法で、両小野の色を芸術的に表現した。
そこかしこに野焼きの煙が立ち上る風景に感銘を受けた映像ディレクターは、その様子を、塩尻に伝わるキツネ「玄蕃之丞(げんばのじょう)」のアニメーションや玄蕃踊りの音声と重ねて映像化した。
ワイン製造の過程で生まれるブドウの搾りかすから絵の具を作り出したイラストレーター、平出地区の土で作った立体を平出遺跡公園で野焼きした画家、高ボッチ高原で即興ダンスを創作したダンサーも。塩尻の魅力を芸術家ならではの視線でとらえ、作品化している。
ANAの新規事業開発部署「デジタル・デザイン・ラボ」が、アートによる地方創生を目指して企画。信州まつもと空港にANAは就航していないが、ANA企画者の田辺佳奈美さん(30)が市職員らと2018年から交流を続けていた縁で実現した。「美術館がないなど、アートと少し距離がありそうな街。かえって面白いと思った」と田辺さん。
市のシビック・イノベーション拠点「スナバ」の運営スタッフらが実行委員会を組織。作家の宿泊施設や展示場所を手配したり、作家と市民をつなげたりした。

市民と作家が交流互いの日常に触れ

作家たちは滞在中、野沢菜の収穫やしょうゆ造りを手伝うなど、市民の日常に溶け込みながら創作。日ごろアートになじみのない市民が作家と交流の機会を得た。
スナバに出入りする高校2年、増田匠さん(17、塩尻町)は、平出博物館で創作活動した画家、箕浦建太郎さんの野焼き作業に立ち会った。平出は祖父母の家があるなじみの場所だが、「箕浦さんと交流したことで平出を見る目が変わった。縄文時代に興味が持てたし、よその人にもっと平出を知ってほしいと思うようになった」。
塩尻市内の事業所で商品のブランド設計の仕事をする御厨ありささん(26、松本市深志)は、ダンサーのアオキッドさんとスナバで知り合い、朝5時から高ボッチ高原での創作活動に同行。「商業的な価値観の中で活動しない姿勢が刺激的だった。踊ることに対する『使命感』の強さがすごかった」と話す。
「市民が作家と交流することに大きな意味と可能性を感じる」と実行委員長の岩佐岳仙さん(41、塩尻市大門桔梗町)。「アートは街なかのにぎわい創出にもつながる。継続の方法を探りたい」と力を込めた。

31日、作家や実行委のオンライントークイベントを定員100人で開く。詳細はイベントのインスタグラムか田辺さん(k.tanabe@anahd.co.jp)へ。