「できないに挑む」多層球にものづくりへの意気込み詰め

直径10センチの球の中に一回り小さな球、その球の中にさらに小さな球があり、ころころと動く。どのようにして作ったのか、見る人の頭を悩ませる。作ったのは塩尻市塩尻町にある従業員8人の切削工具メーカー。この不思議な構造物「多層球」には、ものづくりへの意気込みが詰まっている。
「多層球」は昨年12月、「第15回切削加工ドリームコンテスト」造形加工部門で銀賞を受賞した。エクセルエンジニアリングの赤須正秀社長(82)が、中国・清の時代(19世紀)に手作業で作られた象牙の多層球をテレビで見たのがきっかけだった。「機械だけで彫りだしてみせる」。専用の刃物と治具(工作物を固定する器具)で挑んだ。
12センチ角のヒノキ材を形状の違う8種類の刃物を使って6方向から彫り進めた。一番の難関は中にある2つの球体をどう固定するか。素材が金属なら、球と球の間に接着剤を入れて固定し、すべて彫りだした後に熱工具で接着剤を溶かすなどの方法が考えられるが、木ではそれもできない。
「金属の治具でどう固定するかがこの作品の肝。聞けば『なあんだ』ということだが、それを思い付くのが難しい。ものづくりとはそういうもの」と赤須社長。「多層球自体は実用性はないものの、これを作り出すための遊び心や情熱、発想力がものづくりを支えるんだよ」と話す。
この作品は、2016年8月に松本市で開かれた第1回「山の日」記念全国大会で、当時は皇太子・皇太子妃だった天皇皇后両陛下もご覧になっている。
同社には、形状が複雑だったり強度が低かったりして、削るのが難しい部品を手にしたメーカー社員が、赤須社長の知恵を頼って全国からやってくる。
「人が『できない、なんとかしてくれ』っていうものに挑戦するのが楽しい」と赤須社長。日本のものづくりの一端を支えている自負が、ひしひしと伝わってきた。