池田町と松川村で聞く-給食に有機農産物

農薬や化学肥料を使わずに育てた米や野菜を学校給食に導入する動きが少しずつ広がっています。池田町と松川村では昨年11月末から、町村内の小中学校5校に給食を供給する池田松川学校給食センター(松川村)で使用するご飯を2カ月に一度、地元産の有機米にしています。この取り組みを発案した池田町の甕聖章町長(73)、生産者、給食センターに導入の経緯や思いなどを聞きました。

体に地球に優しい食を 欧州や国内農家の取り組み勉強

★甕町長
─なぜ有機米を給食に使うことにしたのですか?
不可能と言われた無農薬、無肥料のリンゴ栽培に成功した木村秋則さん(青森県)の映画を見たり、本を読んだりしたことがきっかけです。ヨーロッパ諸国では有機農産物に対する関心が高いことを知り、家族もオーガニックに興味を持って勉強していたことから関心を持ち始めました。
それで昨年4月、住職をやりつつ自然栽培を普及させる活動に尽力している高野誠鮮(じょうせん)さん(石川県)の畑を視察に行きました。話を聞くうちに、アトピーやがんなど近年急増している病気や健康問題、土壌汚染などの環境問題が、農薬や化学肥料などの化学物質と無関係とは思えなくなりました。
池田町でも地球に優しい農業を目指して取り組んでいきたい、できることから始めたいと思い、農薬や化学肥料を使わない農家を探しました。思いが通じ、話し合いからわずか1カ月で始めることができました。
─今後、米以外の有機農産物も使う予定ですか?
池田町、松川村の中で無農薬または有機栽培の農産物を使うには、季節や安定的な供給という面でまだ難しいです。環境が整えば進めたいですが、まずは条件をクリアできる米から始めました。
─課題と将来の展望を教えてください
課題は生産者の高齢化、なり手不足。すぐに対応は難しいので、まずは農薬や化学肥料に頼らない農家を育成したいです。
町の子どもたちには給食をきっかけに環境問題に関心を持ってもらい、地球を守っていくという意識、温暖化や災害は命の問題と直結するということを学んでもらいたいと思っています。

栽培苦労多いも未来の子のため海外で普及活動も

★有機米を提供する矢口一成さん(78、池田町)
20年以上、有機栽培にこだわった米作りをしています。NPO法人民間稲作研究所(栃木県)代表の故稲葉光國さんに、自然の循環機能を生かした有機稲作を学び、海外に有機栽培を広める活動にも関わってきました。
有機米は、農薬や化学肥料を使う慣行栽培と比べて虫がつきやすく、収量が少ないなど苦労も多いです。でも、稲葉さんは「将来を担う子どもたちが健やかに育ってほしい」という一心で有機栽培を続けてきたそうです。
有機米は一般になじみがなく食べる機会もほとんどないですが、子どもたちには給食を通して食の安全、環境や健康問題を考えるきっかけになってほしいと願っています。

コストに課題も調整し無理なく、食材をなるべく国産に

★池田松川学校給食センター事務局長の楜澤俊明さん(55)
有機米を精米すると、虫が養分を吸ってできた黒い斑点が残る部分があります。それ自体は問題なく、むしろ安全・安心でおいしいお米であることの証しです。有機米では斑点米をゼロにすることはできず、これを取り除くのに手間がかかります。
当給食センターでは通常、特別栽培米(減農薬)を使っていますが、コスト的に有機米はこれより高くなるものの、現時点では他の食材と調整しながら無理なく導入できています。みそや他の食材なども、なるべく地元産か国産のものを使っています。

エネさんオーガニック進む仏国

日本人と結婚し仕事で1990年から8年間、伊那市で過ごした後、母国フランスでエコファームの宿を営みながらオーガニック給食の推進活動に尽力するフィリップ・エネさん(62)に話を聞きました。
─フランスで給食にオーガニックを使う動きはいつから?
20年ほど前です。当時はなぜオーガニックが必要か分からない、コストの問題で実現できないという風潮でした。
─それがどう変わったのですか?
フランスは農業大国で、農薬や化学肥料を多用する農業によって環境が悪化してきたこと、動植物に異変が起きていることなどが報道され、徐々に人々の意識が変わっていきました。
一番のネックのコストは、給食の調理人と栄養士がタッグを組み、割合が多かった肉の量を調整したりメニューを見直したりすることで、従来より下げることができました。
─普及はどのように?
実際にオーガニック給食を実現した地域を紹介することで、それをモデルにどんどん広がっていきました。
南仏の小さな村が、子どもたちの未来を守るため「学校給食と高齢者の宅配給食をオーガニックにする」という前例のない試みに挑戦。その軌跡を追った映画「未来の食卓」も大きな影響を与えました。やればできるという実例を示していったのです。

フランスでは学校給食でオーガニックを使う割合が法律で定められ、韓国ソウル市は今年から全ての小中高校で「オーガニック無償給食」を始めるという話を聞きました。日本でも環境への配慮やオーガニックに対する関心が以前より高まっていると感じますが、さまざまな情報があふれているため何が正解か迷います。課題はありますが、池田町をモデルに近隣の市町村にも広がってほしいと思います。