独自の選書にこだわるお店

本と花の店 枯淡苑(こたんえん) 松本市

ネット社会との距離考える

松本が誇る2つの国宝、松本城と旧開智学校を結ぶ南北の通り沿いにたたずむ築90年近い古民家。引き戸を開けると、土間に置かれた本棚にインターネット関連を中心とする最新刊がずらりと並んでいる。頭上にはドライフラワーやリースなどの飾り。ここは一体?
昨年7月、松本市開智2にオープンした本と花の店「枯淡苑(こたんえん)」。コンセプトは「インターネットとの付き合い方を考える」だ。
営むのは東京からIターンした照井元貴さん(31)、あかねさん(34)夫妻。アナログな空間とインターネット関連本の異色な組み合わせ。独自の選書にこだわる2人の思いとは。

IT関連の仕事東京から松本へ

照井元貴さんは福島県、あかねさんは高知県の出身。お互い東京でマーケティングの仕事をしていたことが縁で出会い、結婚した。
いずれは地方に店を開きたいと考えていた2人。登山やランニングイベントなどでたびたび訪れていた松本が気に入り、年1回、市内で開いている「まつもと一箱古本市」にも参加。その際、地元書店関係者らとの縁ができたことがきっかけとなり、2019年7月に移住した。
かつて東京のIT企業でウェブマーケティングの仕事に携わり、現在も週に2日は在宅で関連の仕事をこなす元貴さん。「情報を取り入れることは食事に似ている。良い情報を取り入れないと心身ともに駄目になる」。ネット上に流れる情報の質、個人の顔が見えづらいネット社会の在り方などに強い危機感を覚えていた。
もともと古本屋巡りが好きで、店主の個性が光る独自の品ぞろえや空間に魅力を感じていた。店を開くにあたり、「インターネットとうまく付き合う」をコンセプトに決めた。最新のネット事情などインターネットに「寄り添う(使っていく)」「離れる(距離を置く)」の両面から本を選び、棚にも左右に分けて並べた。
折しもコロナ禍でテレワークが進み、人々がパソコンに向かう時間が急速に増加。来店者もこうした店のコンセプトを理解し、歓迎する人は少なくない。
2度目の訪問という市内の会社員、矢野由美子さん(45)は、最近、SNSなどの利用が増えてインターネットに依存気味と感じていた。「インターネットから『離れる』方に興味がある。店のコンセプトや、置いてある本にもとても説得力がある」。棚の本を一冊ずつ手にとっては熱心に眺めた。

癒やしの野の花自然とのコラボ

店内では、あかねさんが作り飾っているナチュラルなドライフラワーが、本に疲れた目に癒やしを与えてくれる。東京では材料も花屋で購入しないといけなかったが、松本では道端や河原など、近くに良い素材がいくらでもある。「野の花は繊細な作りで、組み合わせにより宝石の原石のように輝く」と、松本の自然から得られるコラボレーションを楽しんでいる。
「枯淡」には、世俗に流されず、あっさりとした中にも趣があるもの─の意味がある。元貴さんは、「自分にしか見いだせない価値を見つけてもらうところ」の願いを店名に込めた。
「本に囲まれたこの『場』が好き。これから地元の人の信頼を少しずつ得ていって、何年もかけて『場』を育てていきたい」。店の一角に置いたベンチで常連客らと本や最近のネット事情などを話題にする井戸端会議も、そのための大切なひとときになっている。

【メモ】
【枯淡苑の営業】金~月曜の午後1~7時(2月中は5時)。本はインターネット関連の新刊のほか、文学、エッセー、絵本など中古も含め約2000冊を置き、買い取りも行う。今月はミモザを使ったリース作りなどの個人レッスンも開催。問い合わせはメールcotanbooks@gmail.com