「大好きな場所」秘湯に新しい風

御嶽山麓 温泉宿の若主人 田口雄太さん

木曽町三岳の田口雄太さん(29)は、昨春に祖父から引き継いだ温泉宿「釜沼温泉 大喜泉(だいきせん)」の若主人だ。革小物の職人、マーチングバンド指導者など多彩な顔の持ち主で、持ち前の行動力で御嶽山の麓の秘湯に新しい風を吹かせている。

革小物の仕事にも全力投球

宿は王滝川の支流、入川(いりがわ)沿いにあり、対岸に自噴する源泉(炭酸水素塩冷鉱泉)は、古くから湯治場として親しまれてきた。
この源泉に着目した曽祖父が1975(昭和50)年に開業。89(平成元)年に後を継いだ祖父の修さんが、泉質を研究してアトピー性皮膚炎への効能を前面に打ち出し、全国的に知られる温泉宿になった。
修さんの体が弱り、廃業が取りざたされた時、神奈川県内の工房で高級革かばんなどを作っていた雄太さんが後継に手を挙げた。「毎年遊びに来ていた大好きな場所を失いたくなかった。ここは療養に来る人が多く、廃業すると大勢の人が困る。誰かが継がないといけない」と2019年4月、故郷の横浜市から移り住んだ。
修さんは昨年7月に他界。今は祖母の仁子さん(85)と2人で宿を切り盛りする。

輪切りにした王滝カブをサーモンで巻くなど、豊かな発想力が光る料理が自慢の宿は、現在休業中。昨秋の少雨で、源泉の湧出量が減ったためだ。4月に再開する予定だが、手をこまねいてはいられない。
客の7割は中京方面から自家用車で訪れるため、冬用タイヤが必要なこの時季は、例年も客足が遠のく。このため地元客を呼び込もうと2月11、27、28日の3日間、木曽郡内在住者限定で、大浴場の1時間貸し切り(3500円、各種割引きあり)イベントを開催。湯船にリンゴを浮かべ、源泉で割ったりんごジュースなどを振る舞う。
中学生の時から横浜を離れるまでマーチングバンドに熱中。20~22歳は毎夏に本場のアメリカに渡り、現地の団体に入って連日のように大会で演奏した。22歳で革製品の工房に弟子入りし、25歳で自身のブランド「tagu」を立ち上げ、工房の仕事と両立。木曽でもワークショップを積極的に開いて革小物の魅力を伝えるなど、好きなことには常に全力投球だ。
「お客の一人一人と濃く関わり、心が通い合うあったかい宿にしたい。温泉についてもっと勉強しないと」と雄太さん。県温泉協会の会長だった修さんが立ち上げた、温泉療法や保養の啓発を担う「温泉療養指導士」の資格取得が目標だ。