障害者就労支援社会貢献と報酬に

「マーメイドタバン元町」仲間と働く 欠かせない場に

松本市元町にある3階建てのビル。通りに面した1階で、男性たちがパソコンを丁寧に分解し、グリーンの基板を取り出していた。5部屋に分かれた2階では、さらに細かい部品の解体やデータ漏洩(ろうえい)防止の作業などを、男女が手分けして行う。
障害者就労継続支援B型事業所「マーメイドタバン元町」。元サラリーマンで福祉分野には縁がなかった所長の中村一芳さん(58)が2014年に立ち上げた。主に精神に障害のある人が作業に通う。
パソコンや携帯電話などの基板を分解・分別し、精錬会社に売却する事業を始めたのは3年前。今ではこれが大きな収入源となり、利用者への報酬を支える。リサイクルや廃棄物削減にも貢献する仕事場は、利用者たちのよりどころにもなっている。

新たな事業模索再資源化を学ぶ

施設名の「マーメイドタバン」は、直訳すると「人魚酒場」。シェークスピアがゴルフ仲間と集まり、わいわいがやがやした場所とされる。「いかにも障害者施設っぽい名前にするのが嫌だった」と所長の中村一芳さん。自身もゴルフ好きなこともあり、名付けた。
松本市生まれの中村さんは大手メーカーで経理畑を歩み、40代半ばで退社。その後、病院の事務長を務めた経験から「高齢の人たちと接するのが楽しかった」と老人介護施設の運営を目指したが、友人が運営していた障害者作業所を見て興味を抱き、方向転換した。
当初、事業は編み物やキーホルダーなどクラフト品の製造が軸だったが、他の施設の事業と重なり、販売単価が安く利用者の工賃も上がらないことから新たな事業を模索。障害者が廃棄パソコンの解体・分別を通して再資源化の事業を担う「日本基板ネットワーク」(本部・新潟市)で研修を受け、パソコン解体などの技術や知識を学んだ。
2018年からは不要な電子機器の引き取りを開始。解体して貴金属やレアメタルをリサイクル、国内の精錬会社に売却し利益を得ている。
「スタッフも働く仲間も雰囲気がいいし、ここに来られない土日が憂鬱(ゆううつ)なくらい」と、慣れた手つきでボルトをはずし、パソコンを分解していた川上敏夫さん(58)。2階で仲間2人と作業していた宮下由紀代さん(64)は「今はここに来るのが楽しみで、幸せな気持ち。おしゃべりをすると癒やされる」と笑顔で話す。
仲間と働き、社会に貢献することで生活に張りが出たり、心が安定したりと、利用者たちにとっても欠かせない場になっている作業所。そして、誰もが楽しみにしているのが、昼食の時間だ。毎日、日替わりの料理をスタッフが振る舞う。

回収量増やして利用者の収入に

とはいえ、台所事情は決して楽ではない。B型事業所の同施設は利用者と雇用契約は結ばずに出来高に応じて工賃を支払う。松本市内を中心に30人の登録者がおり、1日平均20人ほどが作業に通っている。国からの給付金で6人のスタッフ(パートタイム)の人件費や運営費は賄えるが、利用者への工賃は収入から捻出する。
現在、1日の基本工賃は600円。作業した品は同作業所が買い上げる形になり、その分がプラスされる。従来の事業に電子機器の解体という新たな事業が加わることで、計画通りに進めば利用者にとっても月数万円の大幅な収入上積みになるという。
そのためにも中古パソコンの回収量を増やす必要がある。1カ月当たりの目標は基板の出荷単位の600個だが、現状はほど遠い。中村さん自ら地域の企業などを回って回収を働き掛けており「ぜひ協力をお願いしたい」と呼び掛けている。

【電子機器などの回収】
不要になったパソコンやハードディスク、ルーター、ケーブルなどの周辺機器、ゲーム機や携帯電話など。松本市近郊なら1台からでも取りに行くといい、セキュリティーが心配な場合、回収先でハードディスクを破損させる作業にも応じている。℡0263・32・0022