【記者兼農家のUターンto農】 #1 父に弟子入り兼業農家の道

甘い誘い文句と覚悟迫る問い…

少し怖じ気づいている。
「農業のリスクや厳しさを理解していますか」。まず、こう問いかけられた。始めに大金がいるし、収入は天候や相場に左右されると例も挙げてくる。
続いて「家族の理解と協力が得られますか」。農村は不便だし、信州の冬は寒い。さらに、古い伝統やしきたりの残る「農村社会で暮らせますか」「農業を始める信念がありますか」と畳みかけてくる。今の仕事が合わないとか、大自然の中で暮らしたいという考えは甘い―と、心の内を見透かすよう。
大それたことを始めたのかもしれない。
問うてきたのは、県の公式サイト。新規就農を支援するページは「長野県で農業を始めてみませんか」と誘いつつ、冷静な自己判断も促す。それが、やけに現実を突きつける口ぶりなのだ。
どうしてなのか。県農村振興課の担当者は「気軽な相談は大歓迎だが、経営を考えない人が意外と多い。農業ならできると」。失敗して、本人や家族に過大な負担が残る場合がままあるという。
昨今の、農業やエコへの関心の高まりが背景にあるのかもしれない。このページ自体がそれに乗って始まったようなものだ。浮ついた気持ちを落ち着かせようという、厳しめの物言いは理解できる。
県担当者は「それでもやりたい、と来る人はいる」。年に200人ほどという。県の新規就農者は45歳未満を数えており、47歳の私はそこに入らない。それに農業が主たる収入源とは言えない。実際、就農を気楽に考えているところもあった。
それが、県の問い掛けに行き当たって、気の緩みを突かれた思いがした。農業を始めてみると分からないことだらけだったからだ。栽培技術も、経営も。将来も続けたいなら、ちょっとまずい…。その思いから、冒頭の書き出しとなった。

今年、東京から塩尻にUターンした。MGプレスの記者をしながら農家の父に弟子入りし、主に米とリーフレタスを作る。今まで新聞記者しか経験のない私が飛び込んだ農業の世界。苦労や戸惑いは想像に難くはないが、果たしてどうなることか…。「記者兼農家」の率直な思いを毎週、伝えていきたい。