89歳の現役スキーヤー 安曇野市の古幡さん

気力衰えず 飽くなき挑戦心

陽光を浴びた雪の急斜面。旗門を果敢に攻め、高速で滑り降りる男性の姿があった。迫力と風格ある滑走、レーシングスーツに身を包み、背筋の伸びた立ち姿…。安曇野市穂高有明の古幡光司さん、御年89歳。大町市スキークラブOB会に所属する、アルペンスキーの現役競技選手だ。
ゴーグルを外すと柔和な表情が現れた。雪の反射を受けてまぶしそうに笑う。間近に見た滑りと年齢とが記者の頭の中ではすぐには結び付かず、驚きで言葉が続かなかった。
スキー歴約70年。平日はほぼ毎日、鹿島槍スキー場(大町市)に通う。現役で競技にこだわり続ける原動力とは-。

古幡光司さんがスキーと出合ったのは、社会人になった19歳ごろ。昭和電工大町工場(当時)に勤務し、通勤列車の中で職場の先輩から誘われたのがきっかけだった。
大町市中山高原にあった中山スキー場(当時)でゲレンデデビュー。当時はリフトもなかったが、上達するに従ってのめり込み、20代後半から全日本スキー連盟の準指導員、指導員資格を取得した。並行して「草大会」にも出場するようになり、競技の魅力にもはまった。
45歳の時、実業団のスキー選手権(45歳以上のクラス)全国大会で見事優勝。全国レベルの大会での初優勝に自信を付け、その後は全日本マスターズ選手権に(改称前のオールドパワー大会、ベテラン大会を含む)に出場。1987年には55~59歳クラスで7位初入賞、2008年は75~79歳で初表彰台の2位、18年大会の85~89歳で初優勝を果たした。
全日本マスターズのクラス分けは5歳刻み(90歳以上は1つのクラス)。「85歳の連中にはかなわない。クラスで一番若くなるから早く90歳になりたい。年齢が上がるのを繰り返し待つ。だからやめられない」。いたずらっぽく笑う。
今年1月の県マスターズ大会(飯山市)にエントリーした選手の中では、同年生まれのもう1人の選手と共に最高齢だった。ただ、古幡さんは当日のコース状態や体調から棄権を選択。無理をせず、年齢や体調に応じた冷静な見極めや判断も心掛けている。
体力や技術の衰えは年々感じるというが、自宅付近で夏場はインターバル速歩で筋力や体力を維持。冬場も練習の後にはクールダウンを兼ねて2、3キロは歩く。地道な努力を欠かさない。運動だけでなく、趣味の紙飛行機作りも楽しむ。
競技を続ける古幡さんにとって、クラブOB会の仲間の存在は何より大きい。全日本マスターズの75歳代の連続覇者など実力派の選手も多く、「『若い人』たちが刺激を与えてくれる」。全日本の大会でもライバルたちは顔見知りだが、「負けねえぞ!」と気力は衰え知らずだ。
競技の醍醐味(だいごみ)は、斜面の変化や雪の状態を見極め、設定されたコースを攻略する楽しさにあると言う。スピードやコースへの対応力が求められ「全身も頭も鍛えられている。生涯スポーツには最高では」。
来季の目標は全日本マスターズ優勝だ。滑れる限り、続けられる限りは、競技者でありたいと話す。「後ろは振り返らない。前へ前へ」の言葉に、飽くなき挑戦心がにじんだ。