【記者兼農家のUターンto農】 #3 春先の気候

霜に負けない生命力…

物音で目が覚めた。10日未明、辺りはまだ真っ暗だった。引き戸からのぞいて見た。父だった。
「何してるだ?」
「霜さ」
ずいぶん冷え込んでいた。ふと目が覚めた父は、果樹の花が遅霜をかぶる恐れを感じたのだ。自家用に植えてある庭先のナシやモモの木の枝に布を掛けて回っていたという。
夜が明けて見ると、屋根がうっすらと白い。「やっぱり霜が降りたんだ」。そういえば、リーフレタスは大丈夫なのか。
前回書いたマルチシートへの苗の定植は、数週間前から始まっている。植えられたら基本的に野ざらしだ。しなしなと薄っぺらい葉っぱが、霜に耐えられるのか。
「平気さね」と母は事もなげに言った。遅霜に気を使わなくてはならないとしたら、零細家族農家にはかなりの負担になるだろう。リーフのしたたかさがありがたい。
それにしても今年は季節の進み方が早く、いつにもまして不意打ちのような霜だ。畑にリーフの様子を見に行った。
緑の葉っぱに所々、汗で塩をふいたように白い粒が付いていた。でも、しおれた様子はない。触ると、しなやかな手応えがあった。安心した。
実は、畑には野ざらしではないところもある。早い時期に植えたリーフに、細かく穴が空いたネットを掛けてある。生育を助ける保温が主な目的だ。
ネットはトンネル状ではなく、じかに苗を覆う。頭を押さえつけられて苦しそうにも見えるが、あにはからんや。やがて、ぐんぐん成長してネットを押し上げる。
霜をかぶって平気な苗があり、ネットの重みをものともせず伸びる苗がある。薄っぺらいリーフにたくましい生命力を感じた春先だった。