安曇野ビンサンチ美術館がAR技術導入

「動く作品」新たな鑑賞法

森の中の美術館。屋外に展示されているフクロウなどが描かれた壁画にスマートフォンなどの端末をかざすと「あら、不思議」。端末の画面の中でフクロウが飛び立ち、笑顔でこちらに迫ってくる。夢と現実の世界が入り交じっているようだ。
安曇野市穂高有明の安曇野ビンサンチ美術館は、県内では珍しいという「拡張現実」と呼ばれるAR(オーグメンテッド・リアリティー)技術を導入し、29日から今季の営業を始める。
「絵や写真になっているものは本来、動いて変化している」。そう話すのは同館館長の北山敏さん(71)だ。
「描いたプランクトンを何とか動かしたい」。ミクロデザインアーティストでもある自身が半世紀前に受けたこの衝動を現代技術で実現させた。美術作品の新たな鑑賞法になるか─。

美術館館長 北山敏さん コロナ禍にAR技術を研究

安曇野ビンサンチ美術館の屋外に展示されている縦1・8メートル、横4メートルのCG(コンピュータグラフィックス)。牛がのんびりとしている牧場の上空をフクロウ数羽が飛んでいる。同館館長の北山敏さんが9年前に制作した作品だ。
アート・デザイン系アプリ「Artivive」をインストールしたスマートフォンやタブレット端末をこの作品=右下写真=にかざすと、フクロウが立体的になり、羽ばたきながら、こちらに向かって飛んでくるように見える。
同じように、偏光顕微鏡で見たワインやコーヒーなど液体の結晶を幻想的な写真に仕上げる北山さん独自の作品にかざすと、人間が佇たたずむ森の中できれいな色の結晶が揺らめき、時が流れるように場面が変化。最後に人が見上げるほどの大きなフクロウが登場する。
同館に展示されている約150点の作品のうち、約30点がAR対応という。
誰もが楽しめる夢と現実の世界

誰もが楽しめる夢と現実の世界

コロナ禍で昨年1年間は休館。北山さんはその時間を利用し、AR技術を研究した。その中で最も気に入ったのが「Artivive」が配信するアプリで、「アート作品との相性が一番良かった」という。
1972年、22歳だった北山さんはアーティストとして活動。その中で、縦4メートル、横12メートルという巨大な壁画を制作した。宇宙空間にプランクトンを浮遊させた作品で、完成した直後に思ったのは「このプランクトンを動かしたい」だった。
木材を12メートル四方のプランクトンの形に組んで海に浮かべた。海に漂うプランクトンの傍らで、自分もあおむけに浮かび作品を完成させた。「誰も評価してくれなかったけどね」と北山さん。だが、以後の創作活動で「宇宙もミクロの世界も常に動いて変化している」ということを意識するようになった原点という。
そうした北山さんの長年の思いから今回、AR技術を採用。北山さんは「世の中に止まっているものはないことを実感してほしい。誰もが楽しめる新しいアートの手法では」と話している。
29日~5月5日は毎日、以後は金、土、日曜に開館。午前10時~午後4時。大人500円、小中学生200円。同美術館TEL0263 ・ 83・5983