松本市安曇の「ヤクの小屋」管理人姫野栄志さん

「山登り」を始め前向きに

松本市安曇に「ヤクの小屋」と書かれた看板が掛かる小さなログハウスがある。ヤクはヒマラヤ山脈一帯にすむ牛の仲間。現地の人々の暮らしやヒマラヤ登山の際の荷運びに欠かせない存在だ。
小屋は管理人の姫野栄志さん(35)が建てた。「登山とインドア・オタクカルチャーの橋渡し」をテーマに掲げ、一風変わった形で山に関わる仕事をしている。
姫野さんが年に4回発行する季刊誌が「ヤクのあしあと」。これまでに出会った面白い人を紹介したい|と作った。表紙を飾るのは自ら考えたキャラクター「山案内娘『島々ヤクちゃん』」。
「山が好きなクリエーター」を肩書とし、「ヤクの小屋」を拠点に活動している姫野さんとは─。

季刊誌を創刊山の魅力発信

2019年の春に姫野栄志さんが創刊した「ヤクのあしあと」は今春号で9冊目となった。山にはいろいろな人がいて、いろいろな楽しみ方があるのに、取り上げるメディアは少なく、そんな人や出来事をもっと知ってほしい─。そう思ったのが創刊のきっかけだった。
これまで、人形と一緒に山登りをする「ドールを連れて登山する人」、登山史には載らないがさまざまな記録を持ったり挑戦する人たちを紹介する「正統や王道を外れた異端の登山者たちの魅力」といった記事を掲載してきた。
「実は登山はオタク向けの趣味」と姫野さんは言う。いい服は山に強いし、いい装備を備えると山でできることが増える。山登りは装備を集めることから始まり、ゲーム感覚で楽しめるという。
多くの人に親しんでもらうキャラクター作りもその一つだ。ヤクちゃんは、クラウドファンディングを通じて集めた支援金で、グッズを作って周知した。今後、3Dモデルを作って映像を制作するなどしていく。

姫野さんは大分県出身。薬剤師として仕事をしていた27歳でカメラにはまり、インターネットで上高地を知った。上高地から見た穂高連峰に魅了されたのが山登りのきっかけとなった。
登山を始めると歩く時間が増え、考える時間も増えた。そのうちに一つの仕事しかできない自分に疑問を持った。やっていないことが多い事実にも気付いた。勤めていた薬局を2018年に退職。初めてのDIYで、キットを取り寄せて自分で建てたログハウス「ヤクの小屋」を安曇に造った。
完成したころにコロナ禍に見舞われ、宿泊施設や登山案内人の仕事ができなくなった。代わりに山のボードゲーム作りなどに力を入れた。
「その時々で一番楽しい状態でいることが大事。一生楽しく暮らしたい」。山に登るようになってからそう考えるようになった。山では些細(ささい)なことは気にならなくなる。街に比べて人間関係が自由とも感じる。「社会生活が疲れた人は山に行ったらいい」とも思う。
進学や仕事であちこちに住んだが「信州の山は違う。山が当たり前にある場所にいられること自体が幸せ」と言う。当面の目標は30代のうちに南極の山に仕事で行くこと。どうすれば可能か、今はそれを考える日々だ。

「ヤクのあしあと」は1210円。松本市和田の「カモシカスポーツ山の店松本店」やヤクの小屋のサイト(「山のよろずやヤクの小屋」で検索)で販売している。