単純作業と創造的、想像的な時間
農業は単純作業が多い。だからつらい、という単純な話にはならない。
例えば、リーフレタスの苗の定植。これが簡単で、かつ大量に行う作業になる。
実家は種から苗を育てている。苗床は発泡スチロールのトレー。新聞を広げたくらいの大きさに、直径2センチほどの円い穴が並んでいる。穴に土を詰め、種をまく。発芽して長さ5センチほどの苗まで育つと、畑に植え替える。
畑では、定植専用の台車が活躍する。イメージは、ちゃちなゴーカート。ボンネット部分に苗のトレーを置き、運転席に人が座る。
作業は、ざっくりこうだ。トレーから苗をスルッと抜き取る。マルチシートに空けてある穴にスポッと差し込む。運転席周りの穴が埋まったら足をグッと踏み込み、後ずさりする。以上。
もちろん準備は必要だ。苗は、抜き取りやすいようにトレーの底から浮かす。マルチの穴は、専用の道具でトレーの穴と同じ形に空ける。おかげで、苗の土部分とぴったり合わさり、根はすぐに畑の土へ伸びていけるというわけだ。
段取り成ると、あとは単調だ。スルッ、スポッ。スルッ、スポッ、ときどきグッ…。苗1000本当たり、私のペースで40~50分、延々と繰り返す。考えなくても、手足だけでこなせるようになる。ならば、と思う。頭が使えるじゃないか。
定番の野良仕事の友はラジオだ。加えて、ここ数年、音声メディアの種類が増えた。例えば、農家自らがインターネットで発信する「農系ポッドキャスト」。具体的な作業について話したり、国の政策を論じたり、話し手の関心で内容はさまざま。田畑で聴講する、青空教室だ。
じっくり考え事もできる。この原稿のあらすじは、リーフを手に、頭で書いた。
もちろん、ボーッとするのもいい。
単純作業のまにまに過ごす創造的、想像的な時間が、私はわりと好きだ。