【小林千寿・碁縁旅人】#3 碁=GO

2011年5月の第32回世界アマチュア囲碁選手権戦島根大会。
東日本大震災で開催が危ぶまれたが、57カ国の代表が参加(著者は中央、大会実行委員長)

世界に最初に普及した日本

コロナが世界中に蔓延(まんえん)し、自由に移動できない現在を考えると、囲碁を教えながら世界中を回れたことは幸運でした。私の訪問国は欧米が主で30カ国、都市は約150カ所。部屋、家を借りて長期滞在したのはニューヨーク、パリ、ジュネーブ、ウィーンを拠点に囲碁普及をしました。
1975年には既にアメリカ、英国、ドイツ、オーストリア辺りが強くアマ6段が数名、それに次ぐのがフランス、ソ連(当時)でした。碁を打つのは、大半が理数系の頭脳明晰(めいせき)な教授、学生たち。私は会う機会がなかったですが、ビル・ゲイツも高校生の頃碁にはまっていたそうです。
明治から1970~80年代まで世界に囲碁を広めたのは日本ですからルールも囲碁用語も全てが日本が基準でした。しかし国内ではあまり語られていませんが2000年頃、即(すなわ)ち中国、韓国のトップ棋士が日本を負かし始めた頃、世界のあちこちで「碁は元々、中国のものだ!」「韓国の方が強いんだ」、だから「碁と日本語で呼ぶにはおかしい」、韓国語の「パドック」、中国語の「ウイチー」と呼ぶべきだ─との激論が出てきました。結局、国際囲碁連盟で正式に議論され分かり易い「GO」が正式名になった次第です。
そして現在は中国系、韓国系の元プロ棋士、プロ棋士を目指したプレーヤーたちが世界中に住んで指導者になっています。
日本は囲碁を世界に普及した最初の国でしたが現在、私が完全帰国してからは、日本の碁を普及している人がほぼいないのが現状です。寂しいといえば寂しい現状ですが中国、韓国、日本の碁の文化度を比べ「日本の囲碁がいいね」と気づいてくれる若者も多く私は根本的な心配はしていません。
また現在、プロ組織がある国は中国、韓国、台湾、日本が中心ですが多国籍のプロ棋士を受け入れているのは日本。碁には国の垣根はありません。(日本棋院・棋士六段、松本市出身)