「志」の雪形とケショウヤナギの新緑が共演(穂高連峰)

吊尾根直下の岳沢側に浮かび上がる「志」の雪形(中央右側)=ニコンD5AF-SVR-ニッコール80~400ミリ 5月14日

「毛筆」の味わい例年より早く

5月14日午前、上高地から仰ぐ残雪の穂高連峰の岩肌に、くっきりと「志」の文字の雪形が浮かび上がった。残雪が文字をかたどる「白型(ポジ型)」。まるで毛筆で書かれたような達筆。爽やかなケショウヤナギの新緑に映えた。
現れたのは、前穂高岳と奥穂高岳を結ぶ吊尾根直下の奥穂寄りの場所。例年、観望の適期は5月下旬だが、涸沢ヒュッテの山口孝社長は「4月27日の上高地開山祭の時、『志』がもう現れ始めていると話題になった」と話す。
今春の気象変化は激しかった。5月3日、穂高連峰は猛吹雪となり真冬の表情へ逆戻り。「志」の文字は何度も見え隠れしながら、14日に整った。均整がとれて見える観望場所は河童橋の周辺。「毛筆」の味わい深さと動感にこだわり、河童橋から約1キロ下流の梓川左岸で撮影を試みた。
記者はこの雪形を長年調査したが、発見・命名者は不明。認知し伝承したのは、元岳沢ヒュッテオーナーの上條岳人さん(1937~2006年)である。
梓川河畔に立ち、小鳥のコーラスと清流の調べに包まれて「志」の雪形を仰いでいると、目指しているものに向かう勇気を大自然からもらった気がした。
(丸山祥司)