【記者兼農家のUターンto農】#9 代かき

田植えに向けて土を整える

畑でリーフレタスが次々と収穫されている時、田はまだ茶色い土がごろっとしていた。5月中旬、標高700メートル超にある田んぼに、やっと水が入った。
種まきから収穫まで、リーフだと2~3カ月のところ、稲はその倍くらいかかる。同じ農業でも、作業内容だけでなくペースもまったく違う。だからこそ同時並行で進められるのかもしれない。
稲作は要所の間隔が空いていて、農事カレンダーの基点になる。田植えは最初のヤマ場だ。リーフ作りを追いかけるようにつないできたこの連載、9回目で初めて稲作に触れる。田んぼに水が入ると、代かきだ。
たっぷり水分を含んで黒っぽくなった田んぼに、トラクターで入る。土の表面をかき混ぜて塊を砕いていく。水になじませ、平らにする。たいていは日を置いて複数回かく。苗を植えられるように、土の表面を整える。
代かきは春の風物詩だ。水を張った田んぼをトラクターが行く、のんびりしたニュース映像が流れる。
実際はどうか。時速2キロ足らず、たいがいのんびりしている。ただ、あんまり気を緩めてもいられない。トラクターが通った跡は、水面下に消える。形がいびつな田んぼだと、どこまでやったか、まっすぐ進んでいるのか、分からなくなる。GPS付きのトラクターがうらやましい。
田んぼの端の折り返しには気を使う。巨大なタイヤが動く範囲をいかに狭くするか。一通りコツを父に教わってやったが、「違うなあ」。父は、タイヤ跡の盛り上がりを指して苦笑いした。
それでも、田んぼ3枚を終えると、「代かきは免許皆伝だな」と言ってくれた。しかし、正直心もとない。出来の良しあしは、水面の下、泥の中にある。現れるのに、少なくとも田植えまで待たねばならない。心配だ。