【像えとせとら】松本民芸館の弥勒菩薩(松本市里山辺)

穏やかな表情に足を止めて

気持ちよさそうに眠っているのか、それとも物思いにふけっているのか-。松本民芸館の長屋門をくぐると、新緑がまぶしい庭の一角の、案内の石柱の上に腰を下ろしている。穏やかなその表情に、心が落ち着かされる。来館者の多くが、その前で足を止めるという。
制作したのは「石匠宮下」(同市女鳥羽1)5代目の宮下近(ちか)太郎さん(故人)。同館を創設した民芸研究家、丸山太郎さん(1909~85年)と親交があり、依頼を受けた。「一九七八」と刻まれている。敷地内にある道祖神も近太郎さんの作だ。
「弥勒菩薩をデフォルメしたと聞いています」と孫で7代目の健太郎さん(48)。入山辺で採れる「堀笠(ほりがさ)」と呼ばれる安山岩から、像と柱を一体で彫りだした。技術的に難しい作業という。「祖父は墓石の字もきれいで、水彩を描いたり歌を詠んだり、器用な人でした」
工場には近太郎さん、息子の征一郎さん(故人)、健太郎さんが作った弥勒菩薩がある。図面通りに作っても、表情は三者三様で異なる。「やはりじいちゃんのは完璧ですね」と健太郎さん。民芸館で像を見て気に入ったという人から注文が入ることも。
この像の「大ファン」と言う県立歴史館(千曲市)の笹本正治特別館長は、自身の著書「すばらしい松本」の表紙の写真に使ったほど。「かわいらしい姿の中に、立ち止まってものを考えようと訴え掛けてくるものがあります」