【記者兼農家のUターンto農】#10 田植え

目印間違えぶざまな筋に

5月下旬、田植えの日を迎えた。
育苗箱に種をまいてからおよそ5週間、苗はビニールハウスで温度と水を管理されて育った。まさに「温室育ち」。ただ、ストレスも受けている。何度も、ローラーで押しつけられたのだ。
一般的な辞書に載る言葉に「麦踏み」があるが、インターネットで調べると「苗踏み」という言葉もある。作業と目的は同じで、芽や苗に圧をかけて、根を強くし、伸びすぎを防ぐ。苗は、ローラーでぐにゃりと曲がるが、すぐに立ち直る。
アメとムチでたくましく育った苗を、田植えのために田んぼに運ぶ。そこからは主に田植え機の操作だ。前回の代かきと同じで、乗用農機具で泥水を行く。気を使うところも同じ。コース取りだ。
実家の田植え機は4条植え。通った後に、植えられた苗の筋(条)が4本できる。田の端で折り返し、一番外の筋から一定の間隔になるように田植機の脇に注意してハンドルを動かす。前方にも目印がある。田の端に、父が等間隔に測って立てた棒だ。
運転席で前の棒に集中していたら、いつのまにか脇の筋との間隔が開いていた。折り返しで目標にする棒を間違えたみたい。想定のコースから斜めに進んでいる。強引に戻したが、ぶざまな筋になった。
まっすぐ進むのが難しく、目標設定を誤ると修正に苦労する。たまたま田植え機の名前が「ゆう優ターン」(クボタ)だった。Uターンは優しくないかも…。田植え機の上で人生を考えてしまった。
ふと気がつくと、残りの苗がだいぶ少ない。慌てて、1カ所当たりの苗を絞った。1本しか植わらないところもある。植えた後に茎が増える「分けつ」に期待だ。なんとか苗は足りた。
日を置いて田んぼに入ると、ほとんどの苗は泥の中でしっかり立っていた。今のところ、心配した代かきの出来は悪くなかったと思おう。