[創商見聞] No.60 特別編 クロスロードクロスオーバー 次世代経営者育成塾報告会

 多様化する中小企業、小規模事業所の経営支援を目的に、松本、大町、塩尻の各商工会議所は「広域連携支援事業」を展開している。「創業・経営支援」を中心に商工会議所と企業の取り組みを紹介する「創商見聞 クロスロード」を月1回掲載。第60弾は、特別編「クロスロード クロスオーバー」と題し、5月19日に松本商工会議所で開かれた「次世代経営者塾報告会」を取り上げる。
 昨年6~12月、全8回24時間にわたり開かれた「次世代経営者塾」。同塾の参加企業5社7人が集い、講習後半年の経過報告を行った。塾頭を務める経営アドバイザーの瀬畑一茂さん(ATEHAS)のコメントを加え構成。5社中2社はクロスロードでも紹介し、瀬畑さん自身も昨年8月、紙面に登場している。
 報告会では、塾での活動を通じて、参加者が学んだこと、取り組んだこと、浮かび上がった課題などを報告した。同じ塾で学び、いわば経営に対する「共通言語」を持った仲間が、さまざまな視点を持ち寄って議論を深める。
 「クロスロード クロスオーバー」。交差点に集い、交じり合った様子を紹介する。

塾頭 経営アドバイザー   ATEHAS 瀬畑一茂

参加企業

天恵の美酒 大信州酒造(株) 田中勝巳 関沢結城

御岳百草丸 長野県製薬(株) 木嶋孝志

きのこは、木の子。 (株)丸金 金子敬介 金子あや子 (合同発表)

つなぐ横丁 つなぐ株式会社 沓掛涼

ブライダルプランニング  ザ・ホスピタリティチーム(株) 田中有希

議題に上がった新規事業を考えたい

大信州酒造 田中勝巳さん

 コロナ禍で考えたことは「新たな事業」を作ること。塾で▽ノンアルコール商品▽酒かすの利用▽甘酒作り―などのアイデアをもらい、とてもありがたかったです。
 現在、酒かすで何かできないかを研究しています。乾燥させて肥料として使えないか、考察しています。
 当社には酒米を供給していただく契約農家が10軒あります。ブランド米の「ひとごこち」「金紋錦」の完全無農薬、無化学肥料栽培を目指していただいている。そこに「酒かす肥料」を利用したいと考えています。
 アルコール分が8%ほど残る酒かすを固形物のまま水田にまくことはできない。乾燥させ、アルコールを抜き、粉末にしたら肥料にならないか。年末から作業工程や肥料としての効果を検証し、酒造りの副産物として事業化できるか図ります。
 天日干しでのアルコール抜きは手間がかかり、作業場所の確保だけでも大変です。しかし、農家さんが作ったお米がお酒になり、その副産物がまたお米を育てる循環型ルートができたら、酒蔵として幸せです。
瀬畑氏コメント
 循環型事業モデル確立のために必要十分条件の検証・検討を―。
 企業として、目的と価値を明確にしておく必要があります。
 判断ポイントは▽社会による要請か▽企業の社会貢献か▽企業ブランドの確立、もしくは消費者や市場への訴求のためか▽コストなど。
 酒かす肥料は、本業の日本酒で酒米の無農薬、無化学肥料栽培化などに取り組んでいる大信州の事業方針と合致している。さらなるコーポレートブランドの確立につながる価値のある取り組みだと可能性を感じます。

生涯顧客創造のアプローチ

大信州酒造 関沢結城さん

 今年、会員制度を発足させました。会員になると醸造体験や契約農家での田植え、稲刈りに参加でき、その米で造ったお酒を受け取ることができる。初年度は試験的だっため会費は無料でしたが、今後は付加価値を高め、有料プレミアムにしたいと考えます。
 会員制度を始める際、社内に企画広報課を新設。20代、30代の若手社員が参画してくれ、社内的にも刺激になりました。
 5月に初めて「オンライン酒の会」を開いたところ150人も参加してくれました。今回の運営はサポート業者に助けてもらいましたが、7月に予定する次回のオンライン会は、「企画広報課で全部取り組みたい」と若手が準備しています。オンライン上でのやりとりなど、苦手だった分野でも頑張っていることをうれしく思います。
 新蔵を建設途中だった昨年4月、コロナ禍での売り上げ減は本当に慌てました。自分たちの経営が、飲食店に頼っていたことを改めて認識させられました。
「われわれはお酒を造る人。酒販店さんが飲食店さんに売る」から「造ったお酒を欲しい人にきちんと届けるのも仕事」へと認識が変わった。コロナ禍を、貴重な情報をリサーチできた機会と捉え、今後も変化に対応していきたい。
瀬畑氏コメント
 参加者からの質疑応答時、新部署の配置転換や人事についての質問が多く寄せられました。
 パートナーシップ型やジョブ型導入などが人事ニュースとして注目される昨今です。配置転換は、個人の専門性が高い中小企業に導入の必要性はあるのか。大企業・役所などの大型組織と同じようなことを行うメリットはあるか。
 金融機関などでは、顧客との過度な親密化を避け、不祥事が発生するリスクを減らすため定期的な人事異動は必要。取引相手と個人的な関係がリセットされ、業務引き継ぎの手間、異動に伴う家族への負担など、デメリットもあるが、大きな組織では必要性がある。
 一方、今までの知見がゼロベースになることは中小企業にとって良いことか。中小企業は単なる配置転換ではなく、経営理念や事業計画に向けた組織構築の視点から人事制度、評価、報酬制度をトータルで検討していくことが経営強化に直結すると考えます。

いろんなことができてないことを感じた

長野県製薬 木嶋孝志さん

 8回の塾の内容は報告書にまとめ、社長をはじめ関係者で共有しました。
 塾が最終回を迎えた12月は、会社の次年度経営計画作成の時期と重なり、学んだ内容を計画に落とし込むのに苦心しました。
 社長方針を発表する際には、コロナ禍で関係者が集まりにくい状況下、メールでの配信も検討しましたが、社長が顔を出して、社員に経営理念、ビジョン等の「想い」を明確に伝えるべきだと判断し、動画を撮影して配信しました。
 塾では、事業計画の重要性も指摘されました。従来単年度計画だったものを各部署で複数年を視野に計画するよう意識してもらいました。
 役職者のスキルアップとして、決算書についての研修会も行いました。
 単年度の決算書だけではなく、過去数年の決算状況、財務状況、他社との比較等、現状把握、利益確保、コストダウンの必要性等について意識の共有を図りました。
 年度計画は特に予算の精度を上げることに注力しました。前年度の財務分析から、精度の高い予算計画作成を目指しました。全社的なコミュニケーション不足も課題と感じ、対話の必要性を高めるために会議もいくつか新設しています。
 役員会の諮問機関として設けた経営会議では、「動く組織をどうつくるか」を話し合っています。他にも予算管理として、計画の進捗状況をチェックする予算会議、販売や開発に関する会議等。
 人材育成にも力を入れ、特に若手社員の活躍の場をつくっていきたいと考えています。
 塾の前後を振り返ると、経営理念の重要性と社内での共有は、分かっていたようで分かっていないことに気付きました。
 今後は社員一丸となって経営理念実現を目指す組織にしたいです。今年度は盛り込めませんでしたが、企業風土の改革として、塾で再三話題になった全社一斉清掃(5S活動)をどこかで取り入れたいです。
瀬畑氏コメント
 学んだ内容をわずか半年で見事に社内に反映し、さらに発展的に展開していることをうれしく思います。
 予算月次管理など、エクセルデータでの進捗管理において、「上書き」ではなく、これまでの数値経過やコメントを残すことを推奨します。
 継続的に経過を追うことができ、その時々の状況説明でない、目標達成に向けての原因や責任の所在を明確にする習慣となり、組織として醸成することにつながる。
 会議新設は素晴らしい。しかし、重ねるうちに会議のための会議になってしまう傾向もあるので、定期的に理念を再確認することが必要です。
 また欠席をどうみるか、各社員が会議をどうみているかなど、解釈のずれの修正も必要。出席しなくては困る会議をしなくていけない。
 会議は時には3年後、5年後と視点を組み替え、次のステージを目指してほしい。

 

理想の理想の理想を意識して

丸金 金子敬介さん

 私は社長の息子で社歴が浅いこともあり、どうしても現場の皆さんにお願いすることに遠慮がありました。
 自分の不足点を改善するよう努める中で、特に塾で学んだ「透明性」と「言動一致」を心掛けています。
 以前はブランディング強化のため、新たな販路開拓に注力していました。コロナ禍もあって、現在は全従業員の働きやすい環境づくりに努めています。新たに、パート新任1週間後の面接や全従業員相談窓口などを設け、不満や疑問の解消を心掛けています。
 社長の息子の私に直接、本音はなかなか届きませんが、間接的に届くようにもなりましたので、さらにコミュニケーションを深めていきたいです。
 清掃活動にも力を入れ、本社で毎朝、社員と一緒に清掃しています。
 経営面では執行会、人事総務会議、工場長会議などを開き、効率的な工場稼働やメンテナンスができるよう努めています。
 塾の後も5回ほど、瀬畑さんに直接面談し、話を聞くことができました。
 塾で学んだ「理想の理想の理想の会社像」を描き、毎日現実と向き合いながら、実現したいこと、その実現をするための組織図を描き、段階的に進められるよう計画しています。
 業績を10倍にした父を尊敬しています。父に追いつくことは難しいですが、「今後も会社を存続させ、従業員とその家族を守りたい、後世に残したい」という父の思いもこのような活動を通して聞けました。父と課題認識を共有できるようにもなり、うれしいです。
 社長のトップダウンではなく、組織が自発的に業務に取り組めるような会社を目指します。単年ではなく、中長期でどうなりたいか、将来をどうしたいかを重視していきたいです。
瀬畑氏コメント
 丸金さんには、松本商工会議所の協力で中小企業庁ミラサポ事業・専門家派遣制度を活用して、松本で数回、その後は長野商工会議所につないでもらい長野市にてアドバイスを行っています。
 松本・塩尻市内の企業は、松本・塩尻商工会議所のアドバイザー制度をうまく活用してください。

得た知識のアウトプットを意識的に

つなぐ 沓掛涼さん

 塾で社内コミュニケーションの重要性を再認識した後、現場スタッフとのコミュニケーションをしっかり図るようにしました。月2日、悩みを聞く面談日を設け、取り組んでいます。仕事の悩みや少しプライベートのことも含めて、聞くことが仕事です。
 研修会も月1回行うようにしました。残念ながら予算的に外部講師は呼べていませんが、現場スタッフやオーナーさんが参加し、互いに聞き手や講師となり、なるべく皆を巻き込んで進めています。
 業務関係では、社員の役割分担などの営業ガイドラインを一から見直しています。コロナ禍で現在は休業中ですが、昨年12月には札幌市に「つなぐ横丁」の2店舗目を開業できました。
 また、個人としては、農業と古民家を組み合わせた「グランピングキャンプ」の企画も、新事業として社に採用されました。
 既存飲食店の売り上げが見込めない現状をなんとか打開したい。現場開発や立地条件調査をはじめ、新事業の計画書を作成しています。
瀬畑氏コメント
 飲食業では独立志向が強い方も多い。自分の経験から、少し困った話があります。前職では、社員との対話からキャリアプランを聞き、人材育成していくことを重視していました。
 ある時、経営企画部門で将来を期待されていた若手が「この会社で勉強させてもらって、早く経営コンサルタントになりたい―」。
 「はて?」。個人的にはたくさん勉強して頑張れだが、会社としてはどう対応するのが良いか。期待の若手として少しでも多くの経験・実績を積んでもらい、早く会社に貢献してもらいたい。
 この若手は現代的で健全なアプローチであり、社会人としては間違ってないのだが、会社の限界点はある。
 「どのような解を各会社は持つか」
 個を大切にする意識が高まり、組織としてどのように折り合いをつけるのか、つけないのか。個人と組織の双方にとってベストな解はあるのだろうか 。
 その仕事や会社にとどまるうえで重要なのは、お金やポジションだけでない時代となってきた。これからどのように向き合うか、各社それぞれの答えを持っていないといけないと思う。

 コロナ禍での新しいウエディング

ザ・ホスピタリティチーム 田中有希さん

コロナ禍で行われる結婚式の実施数は、ほぼ半減です。延期や中止をやむなく選択したカップルも多くいます。
 感染対策をしながら実施できるスタイルの一例として、規模を縮小したり、会食をせずに挙式や写真撮影だけを行なうというスタイルも増えました。会食の代わりに、お持ち帰り用の「お重」を用 意したり、キャンプ場など密になりにくい開放的な場所での開催も提案しています。
 コロナ禍の状況でも行われる結婚式に対して、改めて「不要不急」なものでなく「必要で大事」なものと感じています。
 新事業のイベントプロデュースは、少しずつですが動き始めています。4月から、動画投稿サイトのYouTubeで、信州発の人・モノ・コトによる感動を届ける「感動デリバリーチャンネル」という配信を始めました。
 松本市四賀地区では古民家で民話を聞くイベントを開催。場所は江戸時代の参勤交代で休憩所として使われた旧小澤家本陣で、好評だったため、次回の開催も予定されています。
瀬畑氏コメント
 最後は全社へのコメントになるが、講義全8回・24時間の卒塾後、半年が経過してこの報告会を開催してよかったと思います。経営の共通言語を持った仲間が集積されることをうれしく思う。
 参加者はいろいろな課題を抱え、さまざまな組織の中、おのおののステージに立っているから、同じことを学んだわけではない。
 この塾には、異業種・異業界から、いろいろな経験や課題を持った塾生が集まった。ただ参加しただけ、ただ講義を聞いただけでなく、深く議論を行うことを通じてクロスオーバーしたように、今後も卒塾生間で関係・交流を継続してほしいと思う。
 各社のさらなる持続可能な発展に向けて、会社の強みを再度整理してみてほしい。自社の製品技術、事業構想、システム、組織人材、コストの観点から、どの要素が自社にとっての強化ポイントなのか。さらなる利益強化を目指してほしい
 現代企業は、規模が大きくなることが全てではない。より強固で、事業構想力ある会社が真の意味で成長していきます。

松本商工会議所 広域専門指導員
    野畑吉永
    大久保明
塩尻商工会議所 経営指導員
    谷田部和良
松本商工会議所
    三原大空