果樹農家の塩原さん「収穫直前の最も美しい姿」芸術写真に 

二足のわらじ“新しさ”に挑む

黒の背景にリンゴが浮き立つ。半分に切った断面はみずみずしく、種の様子も分かる。1本ずつ並べたおしべ、1枚ずつ並べた花弁…。リンゴの特性が記録されている。
撮影者は塩尻市宗賀の果樹農家、塩原真澄さん(46)。自分の農園で育てた果物を写真に収め、芸術的な作品に仕上げるアーティストでもある。
狙っているのは、収穫直前の最も美しい果物の姿。毎日果樹園を歩き回り、生育の様子を観察している農家だからこその「シャッターチャンス」だ。
果物の生命力を切り撮った写真は国際的にも高い評価を受けている。今年も複数の国際写真コンペティションで入賞、作品はイギリスなどで展示予定。地元では、市立自然博物館(塩尻町)で27日まで個展「美果選果物を育てて」を開いている。

栽培50種被写体に

ブドウ、桃、プルーン、リンゴ、洋梨…。農園で育てている約50品種全ての果物が、塩原真澄さんにとって被写体だ。ブドウだけで約15品種ある。
果実そのものだけでなく、枝の誘引、花、人工授粉、摘果など、生育過程も撮影。「果物を大事に食べてもらえたら」。そんな思いでシャッターを切る。
日中の作業中、見栄えのいい花や、葉がきれいに付いた実など、“絵になる”素材を見つけたら目印を付けておき、夜切り取って、部屋につるして撮影。変色するので時間との戦いでもある。実の切断面を撮る時は、切ったところに種がなかったり包丁で種がずれたり。どんな作業もすんなりとはいかない。
作品は主に4シリーズに大別される。(1)果物の特徴が分かるもの(2)果物の生育過程を1枚に収めたもの(3)ボタニカルアートのようなもの(4)果物によるオブジェ作品。
最初は床や机に果物を置いて撮り始めた。会社員を辞めて農園を継いだ、27歳くらいの時のことだ。地元のボタニカルアート作家に枝付きの果物を提供するうちに「写真で撮った方が早いのでは」と安易な気持ちで撮影したのが転機になった。まったくいい写真が撮れず、独学による試行錯誤が始まった。

国内外で高い評価

「自分のやっていることは写真界でどう評価されるのだろう」。2016年、コンテストへ出品を始めた。すると、いきなり日本最大級の参加型写真展『御苗場』でグランプリ、東京インターナショナル・フォト・アワードで1位を獲得した。
翌年、複数の海外コンペにも出品。18年には「モスクワ・インターナショナル・フォト・アワード」広告部門1位&新人賞に輝くなど、毎年約20の国際コンペで入賞。特に今年は、英国王立園芸協会主催の写真コンペで4位に入賞した。「ボタニカルアートのコンペも開く同協会での評価はすごくうれしい」と感慨深げだ。

「育種家」としても

果物の新しい品種を生み出す「育種家」でもある塩原さん。ブドウの高級品種「リザマート」をさらに食べやすく、育てやすくした「ヴェラムレッド」は自慢のオリジナル品種だ。「見たことのないものを見たいし、誰もやっていないことをしたい」と話す。
ただ、ブドウと違って、写真はなかなか買い手が付かない。「そうしたことは考えずに突っ走り、気付いたらすごいところに立っていた、そんな感じになれたらいい」。二足のわらじの双方で、飽くなき挑戦を続ける。