ビニールハウスをアトリエに 松川村の宮田さん

「米寿」の健康支える農と絵

アトリエは農業用ビニールハウス、スケッチポイントへの移動は軽トラックで-。松川村の専業農家、宮田耕治さん(87)の趣味は油彩画だ。稲の育苗に使ったハウスを活用して制作に励む。
このアトリエ、夏は暑さが心配だが、脇のビニールの上げ下げで温度調節し、遮光ネットも付けた。「どこよりもここが落ち着く」。すぐ田畑に出られる長靴姿で、100号のキャンバスに集中する。
本格的に絵に打ち込んだのは70歳を過ぎてから。本業とともに、健康維持の秘けつであり生きがいでもある。
数えで米寿になるが、その筆致は柔らかで温かく、そしてみずみずしい。宮田さんの「88歳米寿の個人展」(村公民館主催)は30日まで、同村すずの音ホールで開いている。

松川村すずの音ホール。会場の一角に展示した作品「怒る」が、ひときわ目を引く。仁王像を迫力たっぷりに表現した。「コロナ禍で鬱積(うっせき)した心情を描いた」と宮田耕治さん。
一方、昨年誕生したひ孫が題材の「あーちゃん」の愛くるしさも印象的だ。風景画が主の宮田さんだが、戦争体験や反核平和運動などで痛感した「人間の命」の尊さを、人物画を通じて表している。

松川村の農家の長男に生まれた宮田さん。授業中に先生の似顔絵を描くなど絵が好きだった少年は、信州大学を卒業後、家業に入った。稲作を中心に養豚を手掛けた時期も。村議会議員や地域の役職を務め、社会活動にも携わった。風景画への思いは多忙な「現役時代」から抱いていた。
「兄貴は仕事に明け暮れるだけでなく、趣味の時間を。安曇野はスケッチポイントの宝庫だ」。60代になり、東京で美術教員をしていた弟の益栄さんから画材一式を贈られたのを機に、農閑期や農作業の合間に絵筆を持ち始めた。作画は現場主義。画材を詰んだ軽トラックを走らせる。野で汗を流して向き合ってきた故郷の自然や人々の営みに、感性と感情を重ねてキャンバス上に表現していく。
松本市美術館主催の70歳以上を対象にした公募展「老いるほど若くなる」に入選したのを契機に絵画に本腰を入れ、県展入選も果たした。2013年からは松川村美術会の初代会長を務めた。師事する画家の大島和芳さん(75、安曇野市穂高有明)や、自身も絵をたしなんだ妻の稔子さん(83)から厳しくも愛にあふれたアドバイスも受けつつ、今も制作意欲は衰え知らずだ。
農業経営は近年になって縮小したが、1ヘクタール余での農作業は今も続けている。トラクターやコンバインなど農業機械も操る。
80歳の時、人生のタイムスケジュールを立てた。米作りは82歳まで、好きな絵画は85歳まで、そして88歳で「終末」-。その予定は変更中。特に「認知症予防につながる」と、農業、絵画の計画は延長を重ねる。パソコンを使って絵や人生の記録をまとめ、アクティブに日々を生きる。
絵筆を握れて、自分の農地を耕せる幸せを実感しながら周囲への感謝を忘れない。「元気をもらった」との個展来場者の声はうれしく響く。「この歳になれば、成り行き任せ」。稲が青々と育つ田とその脇にある“アトリエ”に目をやり、穏やかに頬を緩めた。

個展は午前8時半~午後9時半(火曜は5時)。同ホールTEL0261・62・2481