「日常」テーマに変化も形に 現代美術作家・野村剛さん作品展

コロナ禍で得た新たな表現も

朝日村の朝日美術館展示室に出現した、家の骨組みのような木の枠。その中には、テーブル、ふすま、トイレ、流し台にはニンジンやジャガイモ、スパイス、包丁など、実物と作品とが置かれ、おにぎりの包みの切れ端も。いずれも身の回りの何げない光景だ。
インスタレーションと呼ばれる方法で「日常」をテーマに、コロナ禍で感じたことを表現しているのは、野村剛さん(47、塩尻市桟敷)。色付きの紙粘土を使って絵画表現をする現代美術作家だ。
昨年夏、同美術館で粘土絵画の作品展を開く予定だったが、コロナ禍で1年延期に。今回、予定していた作品を展示しつつ「世界中の人が苦しめられている状況を作品によって記録したい」と、新たな要素も加えて表現している。

旅の帰途に着想「粘土で描こう」

野村剛さんは塩尻市出身。デザイナーを目指して京都造形芸術大に進んだ。在学中にイラストレーターに興味を持ち、雑誌などに投稿。卒業後は働きながら絵を描き続け、本格的に絵に取り組もうと2000年に上京したが、作品を応募しては空振りする日々が続いた。
表現手段の軸となる粘土が「降りてきた」(野村さん)のは、気分転換に出掛けた旅行から帰る新幹線の中だった。「色が付いた粘土で絵を描けば楽しいのでは」。イメージが湧いてきた。
家に着くとすぐに色付き粘土を買い、スケッチブックや写真に収めていた「日常」の光景を粘土で貼り絵のように造作。イラストレーターの登竜門として知られる雑誌「イラストレーション」の誌上コンペ「ザ・チョイス」に応募したところ入選。「これが自分の表現」と本格的に取り組み始めた。スポーツ雑誌「Number」、まつもと市民芸術館の広報誌「幕があがる。」、国語の教科書など、さまざまな挿絵を手掛けるようになった。

芸術性に力点誰かのために

2010年ごろから、身近な風景を題材に作品づくりを始めた。展示会で作品を購入した人から「もっと作品を大切に」と掛けられた言葉が心に響き、売るためではなく芸術性そのものに力点を置くようになった。
19年、当時のアルバイト先の店長から「入院中の義父を励ましたい」と頼まれて店長の義父の絵を描き、喜ばれたことも作品づくりに臨む姿勢が変わる転機になった。「これまでは絵で有名になりたいと、肩に力が入っていた。人のためにやる方が自分には合っている」
今は「作品を置くことで空間がどう見えるか」に意識が向いているという野村さん。「粘土だけではなく、何かを越えないとだめだ」と模索する中、これまで無理だと思っていたものが、1年間の作品展延期や多くの人の協力で実現したという。
今回のインスタレーションでは、茅野市でアトリエにしていた空間を再現。失敗作や制作途中の作品など、普通は表に出ない作品も「日常」として展示した。新型コロナウイルスによって白と黒が逆転してしまうような激変があった世界を表現しようと、日用品や過去の作品、人物など、白黒反転させた絵画を周囲に展示した。
展示期間中も「作品はどんどん入れ替わっていくと思う」と野村さん。その変化も「日常」なのだろう。

【インフォメーション】 野村さんの作品展は8月29日まで。朝日美術館は午前9時~午後5時(19日を除く月曜と7月20日休館)。一般400円、高校・大学生200円、小中学生100円。19日と8月7日午後1時半からは野村さんのギャラリートークがある(要事前申し込み)。同美術館TEL0263・99・2359