【ビジネスの明日】#27 フォークロア社長 熊谷洋さん

会社の危機に地域の支え実感

「コロナで経営は大打撃を受けたが、一度、立ち止まって会社の将来などを見詰め直す機会になった」。こう話すのは南木曽町でゲストハウスを3件運営するフォークロア(同町読書)の熊谷洋社長(37)だ。会社存続のために新たな事業に乗りだし、それをきっかけに、地域とのつながりの重要性を実感。「今は足腰を鍛える時期」と、じっくりと構える。
2015年、南木曽町の地域おこし協力隊員になり、17年に同町三留野にゲストハウス「結い庵」、19年に同読書に2軒目の「柏屋」をオープンした。
外国人観光客の「木曽古道人気」で経営は順調。「社運を懸けて」と、20年4月にJR南木曽駅前に3軒目の「MOUNTAinn(マウンテン)」を開業する予定だった。
ところがコロナ拡大による緊急事態宣言の発令。3軒目のオープンは延期し、他の2軒も休業を余儀なくされた。スタッフは総勢18人まで増えていた。
「3軒目は、オープンさえできれば、お客は来てくれるという確信があった」と振り返る。
一転、会社存続の危機に。「何かしなければ」と、思案する中で、スタッフから「藍染め」の提案があった。一から始める事業資金はCF(クラウドファンディング)で募ることに。
2カ月間で集まった金額は目標額200万円を上回る255万円。そして驚いたことに、出資者の多くが、南木曽町の人だった。
「よそ者の集団がやっていることを、地元の人たちは見守ってくれていた。感激した」としみじみ語る。
その資金を活用し、藍染めの布を蜜ろうでコーティングした「みつろうらっぷ」を商品化。東京・銀座の県のアンテナショップ、銀座NAGANOなどで販売を開始したほか、らっぷ作りの体験教室も開いている。
CFを通じて感じた「地域とのつながり」。6月から、マルシェ「木曽路わたし市」の南木曽版や、地元の小学生を集めて英語教室を開くなど、新たな出会いの場を積極的に設けている。
地域おこし協力隊員になった当時、「10年間はここで頑張る」と決意してから7年目を迎えた現在、次の10年も“南木曽人”でいることを決めている。
「経営が順調のままだったら、ゲストハウス以外には目を向けなかった」とし、「これからはローカルコミュニティーをどうつくるか。つまり『街づくり会社』の構築です」と先を見据えている。

【プロフィル】
くまがい・ひろし1983年、宮崎県出身。立命館大学卒業後、NTTデータに就職。2015年3月、同社を退職し、4月、南木曽町の地域おこし協力隊員に。19年2月、フォークロアを設立し、社長就任。同町三留野。