牧尾ダム完成60年 ダム湖に沈んだ集落の絵

王滝「常八」の壁へ近藤さん描く

愛知県内の農業や工業の発展に役立てるため、国策として建設された牧尾ダム(王滝村・木曽町三岳)。その完成から60年を迎えた今年、ダム湖に沈んだ集落の記憶をとどめる絵が、王滝村の「農家民宿&大衆酒Bar常(つね)八(はち)」の壁にお目見えした。今後、連作となる絵も登場する見込みだ。
1人の男性が、まだダムに沈む前の、のどかな集落を見つめている。川で泳ぐ子ども、集落の解散式でうつむく住民の姿…。かつて集落で繰り広げられた光景が、軽やかな色彩で空に浮かび上がる。
作者は木祖村小木曽の画家、近藤太郎さん(26)。6月、常八に2週間滞在し、ダム完成までの住民の様子を記録した映画や村誌などを参考に描いた。
牧尾ダムは1948(昭和23)年、水不足に苦しむ知多半島の住民が、木曽川から水を引いて「愛知用水」を造ろうと始めた運動に端を発し、61年に木曽川の支流である王滝川に建設された。
時代は、政府が「国民所得倍増計画」を決めた直後。ダムは知多半島の農業だけでなく高度成長期の愛知県の工業を支え、国の発展に大きく寄与した。
一方、王滝村の5集落と旧三岳村の2集落が湖底に。補償金を得た王滝村は、スキー場を核とした観光立村を目指したが、スキーブームが去ると巨額の債務を負った。村の一大転機となった牧尾ダムだが、「ダムの善しあしを問う絵ではない」と近藤さん。「過去の出来事を忘れずにいることが大事」と話す。
今回の作品は、これから描こうとする連作の「序章」。今後、ダムの恩恵にあずかる下流域の歴史や、村民への聞き取りを元にした「王滝の未来の姿」なども常八の壁に描いていく。
店を運営し、近藤さんに制作を依頼した倉橋孝四郎さん(37)は「地元客と絵を見ながら村の未来を語り合いたい。そして、宿泊客には王滝の応援者になってもらえればうれしい」としている。