観光振興に一役 人力車で城下町走る車夫・小泉さん

松本再訪願い人力車と共に汗

人力車の蹴込(けこみ)に足を載せ、座席に腰を下ろす。1段高い場所から見ると視界が広がり、いつもの松本城とは違った趣がある。頬に当たる風も心地良く、自分で力を入れずにスルスルと進む感覚はぜいたくそのものだ。
引き手は小泉容一さん(54、松本市横田)。城下町に人力車を走らせ観光振興に役立てよう-と結成された「松本人力車の会」唯一の車夫で、同会所有の人力車を借り営業を始めて10年になる。
東京で生まれ育ち、両親の実家がある松本にIターン。そこで巡り合ったのが人力車の仕事だった。商売として成り立つか不安もあったが、その奥深さに引き込まれた。松本城の歴史から雑学まで、豊富な知識とサービス精神で客を迎える小泉さんの仕事をのぞいてみた。

笑い交え街巡り人柄が魅力にも

観光客でにぎわう松本城の黒門近くの内堀沿いで、人力車と車夫の小泉容一さんが待機している。客が訪れると丁寧に乗せて歩き出す。松本城周辺や中町など、写真撮影もしながら約30~50分かけて巡る。繁忙期は1日6組ほどを案内する。
「リピーターが多いのが一番のやりがい」と小泉さん。城で太鼓演奏を見た女児が「太鼓を始めました」と3年後に再訪したり、重度身体障害のある女性が「面白い」と満面の笑みで乗車したり。客の数だけ思い出もある。
群馬県から訪れた30代男女は30分のコースを利用し「笑いも交え詳しく説明してくれて楽しかった。乗って良かったと思う一番の理由は小泉さんの人柄」と満足そうだ。
人力車は2人乗り。車体の重さと客で150キロ以上になるが足取りは軽やか。それでも夏場にマスクを付け、話しながら引くのは苦しいという。大粒の汗が流れ落ちる。

口コミで高評価70代まで現役で

東京都出身。人材派遣や飲食業などを手掛けるベンチャー企業で20年ほど働き、松本で暮らしたいという母と共に移住。仕事を探している時に知人の紹介で人力車を知った。
「松本人力車の会」は約30年前に結成。人力車は1993年の「国宝松本城400年まつり」に合わせ、当時の青年会議所の有志が出資して購入した。アルバイトを雇って運行したが次第に利用者が減り、2005年に一般向け営業を休止。結婚式やイベント時などの運行のみ対応していた。小泉さんは現在、個人事業主として営業を続けている。
幼い頃からよく遊びに訪れ、小学5年生の自由研究では松本城の構造を調べるなど松本に愛着のあった小泉さん。人力車は未経験だったが「使われないのはもったいない」と車夫に。周囲の協力を得て城の歴史などを学び、客に聞かれて答えられなかった事はその日のうちに調べ、5年目には質問にほぼ答えられるようになった。格安の料金設定も喜ばれ大手旅行サイトの口コミで高評価を得るまでになった。
「車夫の仕事を粋にやってくれていて感謝。お客さんに喜ばれることは観光のイメージアップにもつながる」と、同会の増田博志会長(69、大手4)。
肌身で客と接するため、コロナの感染対策には細心の注意を払う。観光客の減少で売り上げに打撃を受けたが休みを返上して乗り切るつもりだ。
膝が痛い時もあるが70代まで続けるのが目標。「人力車に乗ったお客さんには、もう1回松本に来たいと思てもらえるように『松本リピーター』づくりの毎日です」と小泉さん。人力車と共にこれからも歩んでいく。