中華料理人・山本さんがレシピ本出版 信州発の四川料理

「料理は心。心を込めないと料理はおいしくならない」
熱く語るのは、県内外で中華料理店「四川乃華」など7店舗を運営するシセン(松本市双葉)の山本経一社長(66)だ。料理人となってほぼ半世紀。その節目に、初のレシピ本「あなたもできる!!信州発おうち中華」を出版した。
「芸術家は作品が残るが、料理は食べるとなくなってしまう。何とか形にしたかった」との思いがあった。
創業した1985年当時、辛みその「豆板(とうばん)醤(じゃん)」はなじみが薄く、「担々麺(たんたんめん)」「エビのチリソース煮」などに代表される「四川料理」は県内では珍しい存在だった。「この料理のおいしさを伝えたかった。その気持ちは今も同じ」。重い中華鍋を振り、炎と格闘する料理人としての情熱も、いまだに熱いままだ。

料理人の道歩み約半世紀

山本経一さんが出版した初のレシピ本の巻頭を飾るのは、使用する豆板醤(とうばんじゃん)、甜麺醤(てんめんじゃん)、オイスターソースなど中華料理の調味料だ。
料理は8項目に分け、計54品を紹介。本の副題に「信州発」とある通り、ワラビやフキノトウなど山菜を食材に取り入れているほか、ナス、キュウリ、ジャガイモなど野菜をメインにしたレシピが最も多く28品ある。
「長芋のジャージャー麺」「野沢菜漬チャーハン」「柿とリンゴ入り酢豚」など、「信州らしさ」を前面に出した料理もある。
「地産地消とよく言われる中、中華料理は『別世界の料理』でそぐわないと思われていた。中華でもそれができることを一番伝えたかった」と山本さんは説明する。

料理の魅力を後世に伝える

和田村(現長和町)でレタスやハクサイなどを生産する農家の長男として生まれた。両親が長い時間をかけて野菜を育てる姿を見て「同じ野菜を扱う仕事なら料理人として扱いたい」。子ども心にそう思った山本さんは中学卒業後、軽井沢町のホテルで洋食の修業を始めた。17歳だった。
ホテルは和洋中の料理人がそろっている。その中でも山本さんの目を引いたのが中華の料理人だった。「重い鍋を振り、炎を上げて料理をする姿が男らしくて格好良かった」
1年でホテルを辞め、中華料理人を目指して上京。都内の店で修業を重ね、24歳のとき、初めて四川料理と出合った。教えてくれたのは、日本の「四川料理の父」とされる故陳建民さんの弟子、故久田大吉さん。
「中華にはいろんな地方の料理があるが、四川は味の複雑さ、バランスの良さが絶妙だった。辛さの中に深みがあり、日本人の口にも合うと思った」と、この料理に魅了された当時を振り返る。
25歳のときに信州に戻り、その5年後、独立し「四川乃華」を松本市双葉にオープンした。まだ四川料理が珍しかった時代に山本さんが作る担々麺、マーボー豆腐、エビのチリソース煮などは大人気に。「本格四川の味」が一気に広まった。
第1号店を出してから36年がたった今、山本さんの長男浩一さん(40)が中華料理人になり、父の背を追う。次男一生さん(37)は社長室長として会社を支える。
「四川料理のおかげで家族、スタッフが幸せになり、多くのお客さんと出会うことができた。感謝しかない」としみじみ。「この料理の魅力を後世に伝えていくことが生涯の仕事、使命だと思っている」。料理人の道はまだまだ長い。
レシピ本はA4判、123ページで2700円。四川乃華各店で購入できる。