安曇野市の上野さん 手作り弦楽器で妻の歌に伴奏

自分で作った楽器の伴奏で妻が歌う、そんな夫婦のひとときをもっと楽しみたい-。
安曇野市三郷小倉の上野勝さん(82)は、そんな思いから弦楽器を手作りしている。これまでにバイオリンを4台製作。現在はビオラ作りに取り組む。
エンジンなどを製造する仕事に携わっていた経験もあり、元々ものづくりは大好き。退職後、趣味でナイフを作り、その後は尺八作りに熱中。演奏するサークルも立ち上げたことも。ものづくりの対象はあちこちに向き、今はテレビで製造工程を見て興味を抱いた弦楽器に夢中だ。
普段は、妻の敏さんが歌う「みかんの花咲く丘」を自作の尺八で伴奏する。夫婦の心が通い合う時間を、今度は弦楽器で楽しもうと夢見ている。

興味を抱いたらとことん夢中

上野勝さんが手作りの尺八で「アメイジング・グレース」を演奏してくれた。これまでに聞いた曲とは異なる趣と味わいがある。
上野さんは15歳で石川島芝浦機械に入社。エンジン、トラクターなどの製造に携わり、金属加工などの腕を磨いた。「表面のでこぼこはもちろん、触っただけで、0・1ミリの厚さの差まで分かる」と話す。
退職後、製薬会社での勤務を経て65歳でリタイアし、カメラを始めた。書店でナイフの本を見つけ、ものづくりの楽しさを思い出し、試しに1本作ってみた。職人の血が騒ぐ。切れ味はもちろん、金属の光り具合、柄のデザインにもこだわった。
「1本作るのに、15日ほどかかる」と上野さん。これまでに200本ほどを作り、インターネットで販売、注文も受けるほど腕を上げた。多くは農業の接ぎ木用で、「100分の1ミリまで誤差のないように作った」。
それほど打ち込んだナイフ作りだが、妻の敏さんの「危ないからやめてほしい」の一言で断念。そんな時、テレビから聞こえてきた尺八の音に心をつかまれ、ものづくりの関心はそちらに向いた。
何げなく作った尺八を演奏家に見てもらうと「形は尺八だが…」の一言。スイッチが入った。「極めよう!」
東京へ出向き、専門の道具を買ったり、教室の門をたたいたりして尺八作りに没頭。その結果、2007年に和楽器店のコンテストで努力賞を、08、09年には銀賞をもらうほどに。
自作の尺八を奏でるため、地元でサークルを作り活動。敏さんが体調を崩したのを機にサークルから退くと、次の関心はバイオリン製作に向いた。サイトウ・キネン・フェスティバル(当時)にボランティアで関わっていたこともあり、本格的に打ち込むことに。製作方法を記した英語の本を読み解き、載っていた設計図を参考にグラインダーやスクレーパーなどを使い4台作った。
ビオラ作りを始めたのは「天皇陛下が親しんで演奏され、音が柔らかく、人の声のようだから」。裏板の厚さは2・4~4ミリと場所によって細かく異なるため、「根気よくやるしかないが、気が短いからできるんだよ。こんちくしょーと思いながらやっているね」と上野さん。
1月から製作を始めたビオラだが、年齢もあって体力が続かず、なかなか完成しない。「月の沙漠」など、夫婦でさまざまなレパートリーを楽しんでいるが、伴奏はいまだに尺八だ。「秋にはぜひ仕上げて、2人でアメイジング・グレースを楽しみたい」と目を輝かせた。