【記者兼農家のUターンto農】#22 農産物の盗難防止

地域の目が支えになる

農業者の端くれになって、いっそう農業関連のニュースが目に入る。最近は、ブドウを巡る二つのニュースに一喜一憂した。
最初は、いいニュース。8月24日の県の発表だ。昨年の県農産物の輸出額は、前年から2割増しの約14億9000万円で、2013年に調査を始めて以来、最高を更新したという。
ブドウがけん引している。全体の3分の2を占める約9億7000万円で、前年から3割も増えた。県産ブドウのブランド力は海外でも伸びているらしい。
1週間後、ブドウの盗難がニュースになった。信毎によると、8月に県内で約53万円の被害があり、すでに昨年1年間の額を上回った。塩尻の畑からは、約14万円分がなくなったという。
売れたニュースと盗まれたニュース。ブドウの価値が上がっているという事実が、表裏一体で伝わってくる。
億単位の輸出額からすると、数十万円は微々たるものかもしれない。でも、個々の農家にとっては大きい。
それに気持ちの問題がある。「生産意欲に関わる」とは佐々木浩志さん。松本市山辺地区で、JA松本ハイランドの果樹部会長を務める。「収穫間際に持って行かれるのが一番つらい。くじける」
気持ちは分かる気がする。豪雨でリーフレタスに斑点ができたとき、肝が冷える思いがした。ただ、天気が作物をだめにしたら、まだ仕方ないと思える。だが、赤の他人が盗んで、もうけているとしたら…。「何のために苦労したのか」と、むなしくなりそうだ。
盗難対策で、佐々木さんは地域の目にも期待する。散歩している人から、「見かけない車を見た」と連絡があることがある。防犯や摘発に直結しなくても、ありがたい。
散歩する人は近所でも見かける。暗いうちから歩く人もいる。あいさつを交わす程度でも、田畑を見守ってくれてもいると思うと、心強い。土地に住んでいる人たちの目も、地域のブランドを守り育てる力になっている。