【小林千寿・碁縁旅人】#12 正倉院の碁盤・碁石

「琴棋書画」を嗜む

芸術の秋が訪れました。
囲碁界の芸術品と言えば、奈良の正倉院に収められている国内最古で一番有名な碁盤と碁石です。第45代の聖武天皇(701~756年)の遺愛品の中に、碁盤3面、碁盤容器、碁石4種、碁笥(ごけ)(碁石を入れるための容器)2種があり、それは工芸美術品としても素晴らしいものです。
その中の碁盤「木画紫檀棊局( もくがしたんのききょく)」と、「碁石(象牙)」は極め付きです。碁盤は、色濃い紫檀の盤面に白い線「条」(骨を埋め込んだ細工)を引き、側面には象眼(ぞうがん)でラクダ、動物、人物、文様が描かれ、シルクロードを通って伝来された様子が伝わります。
盤上は今の碁盤と同じく十九路×十九路ですが、現在の9つの星(盤上の点)が17カ所あり、それぞれが5つの花弁を象(かたど)っています。それは百済の事前置碁法を意味し、この盤石が百済からの贈り物だったことが分かります。
そして碁盤の前後に亀とスッポンを象った碁石入れと思われる引き出しが付いていてユニークな作りです。
碁石は象牙を紅、紺に染め、花喰(く)い鳥が彫られています。
5年に一回くらいの頻度で、この碁盤が奈良国立博物館で公開されます。私は、その盤石を観(み)るために今までに2回、正倉院展を訪れました。特に2005(平成17)年は、その碁盤と碁石が主の展示品で、友人たちを誘って行きました。
碁は奈良時代には広く伝わり、身分の高い人々の間で盛んだったようです。大宝律礼の中に、僧などが音楽、遊戯などをすると苦役に処しましたが、「琴・囲碁は制限無し」とあります。それは中国の文化人が、「琴棋書画」を嗜(たしな)むことが伝わっていたからでしょう。琴を弾き碁を打ち書をしたため画(え)を描く。何と優雅な時間を嗜んでいたのでしょう!
秋の夜長に私たちも現代の機械から離れて、何か嗜みたいものです。(日本棋院・棋士六段、松本市出身)