【記者兼農家のUターンto農】#24 1本苗の成長

「分けつ」進み4カ月で19本に

田植えから、期待と祈りを込めて見守ってきた苗がある。数が足りず、1カ所に1本だけしか植えられなかった「1本苗」だ。植えて4カ月が過ぎた。
稲は、成長する途中で根元から枝分かれして茎が増える。「分けつ」だ。注目の1本苗では7月初めに始まった。1本が2本、2本が4本と増える。
新しい茎は、水面下から伸びてくる。いつの間にか、茎が増えるように感じる。不可思議で、でもうれしい。
結局、19本の株に育った。3、4本植えたところは、1株30~40本。追いつけなかったが、効率はいい。
もみの数はどうか。試しに1本を数えると、ざっと100粒は超えている。19本で2000粒弱。1本の苗、つまり種もみ1粒が2000倍になった計算だ。2週前の連載で中村小太郎さんが挙げていた3000倍には及ばないが、一般的な育て方としては上出来だ。
あとは1粒1粒の中身が詰まっていれば言うことなし。ただ、穂が出た直後の8月初めからお盆にかけて長雨が続いたので、影響がちょっと心配。これからは、収穫作業に期待と祈りを込めてあたることになりそうだ。
心配なことは、収穫後にも控えている。今年は売値が下がりそうなのだ。出荷時に農家がJAから受け取る仮払金が、他県の主要銘柄で去年より2~3割も安くなっていると報じられた。コロナ禍で外食需要が減ったため|と解説された。コメに巣ごもり需要はないということか。
在庫がさらにだぶつけば、人気のない古米が増えるばかり。1粒が2000粒にもなるという事実を目の当たりにしても、手放しで喜べなくなってしまう。
これだけ効率的な生産力を生かしきらないのはもったいない。格差や貧困の問題も指摘される中、需要とのマッチングのよりよい最適化に知恵はないものか。1本苗の立派な成熟ぶりにそんなことを思う。