涸沢紅葉劇場 彩りの共演

テント場下部の紅葉の中から見上げる満天の星空。奥穂高岳と涸沢岳の間から立ち上がる天の川にはくちょう座が羽ばたき、暗黒星雲が肉眼でも見える。左側の明るい星は木星=3日午後10時14分

色付きに異変も 温暖化の影響?

山岳紅葉が鮮やかな北アルプス穂高連峰涸沢カール(2300メートル)。新型コロナウイルス禍2年目のこの秋も「一目見よう」と多くの登山者が訪れ、山小屋やテント場は昨年同様マスク着用が続く。感染の防止策を講じながら厳しい営業を迫られている山小屋。3日から5日まで涸沢ヒュッテに泊まり、コロナ疲れの心に癒やしと感動を届けようと「涸沢紅葉劇場」の彩りの共演をカメラで追った。

ウィズコロナの山小屋変わらぬ星空

3日午前10時半、快晴。「本谷橋」から急登の「Sガレ」まで続いた渋滞をようやく抜け出し撮影を開始。
11時50分。カール全体が観望できる涸沢ヒュッテの展望テラスに立った。目に飛び込んできた秋色の光彩は、ダケカンバの黄葉が目立つ。“火焔(かえん)の舞”を演じる主役のウラジロナナカマドの色付きが今一つ精彩を欠いている。
半世紀にわたり「紅葉劇場」を熟知している涸沢ヒュッテの山口孝会長(73)は、今年の色付きについて「8月中旬の戻り梅雨のような長雨の影響では。9月中旬になっても最低気温が10度以上の朝が続き、温暖化の影響でしょうか」と話す。
紅葉は気温が8度以下になると始まるとされ、日照時間と最低気温がそのメカニズムに大きく影響する。赤色の葉はアントシアニン、黄色はカロチノイドの色素。最低気温が高いと、例年真っ赤に色付いたウラジロナナカマドの葉が橙(だいだい)色や黄ばんだ色合いになってしまう。「毎年微妙に違う涸沢の秋の彩りは、その年の気象条件の履歴書です」と山口会長。
気象条件の影響を受けながらも、雄大なカールを精いっぱい染め上げ演じる「涸沢紅葉劇場」の彩りは、訪れた登山者の心を魅了し癒やしてくれる。

紅葉と星空の共演も魅力に

氷河の大地・涸沢の魅力の一つに紅葉と星空の共演がある。満天の星空が広がった3日夜半から4日朝まで徹夜で向かい合い、紅葉と星影が共演する「星景写真」を撮った。
3日午後10時、テント場下部の撮影地に立つ。奥穂高岳から立ち上がる天の川が北東の空へと延びる。カシオペヤが頭上近くまで昇り、暗黒星雲が見える銀河の中で、はくちょう座が羽ばたく。秋の主役「ペガススの四辺形」が天頂に掛り、神話の星座が巡る。
4日午前1時半。撮影地をパノラマコースに移動。前穂高岳北尾根の上部が明るい星々でにぎやかさを増してきた。冬を代表するオリオン座のベテルギウスが赤ら顔で明るい。
2時。おおいぬ座のシリウスが現れ「冬の大三角形(ベテルギウス、シリウス、プロキオン)」が鮮やかだ。
4時。見下ろすテント場に明かりがともり「地上の銀河」さながらに映る。
4時35分。薄明の時刻を迎え星影が次第に失せていく。天空から地上へと光の降下が始まり「涸沢星空劇場」は終焉(しゅうえん)を迎えた。
5時45分。標高3000メートルの稜線(りょうせん)や岩壁がモルゲンロート(朝焼け)に輝き「涸沢紅葉劇場」が開演した。

目立つ一人用テント泊人気

紅葉最盛期の2日に受け付けたテント数は960張り、人数は1270人。いかに一人用テントが多かったのかが分かる。初のテント泊で一人で来たという愛知県岡崎市の女性(31)は「800回以上予約電話をかけたがつながらなかった」。
宿泊人数を定員の半分以下の140人にしている涸沢ヒュッテの小林剛社長(58)は「新型コロナの感染拡大防止対策をしっかりしながら、当面は『ウィズコロナ』でいくしかありません」と話した。

(丸山祥司)