【記者兼農家のUターンto農】#31 秋起こし

春に向けてわらを堆肥化

10月下旬、代かき以来5カ月ぶりにトラクターで田んぼに入った。今回は、水が張っていない。刻んだ稲わらと切り株を土と混ぜ合わせる「秋起こし」という作業だ。
初夏もいいが、秋晴れの下、トラクターでゴトゴト行くのも気持ちがいい。気づくと、小鳥やカラスがやってきて、起こしたばかりの地面をついばんでいる。虫やミミズの類いが、土中から掘り出されているのだろう。田んぼが鳥たちに提供する、最後の秋の恵みかもしれない。
秋起こしは、秋の恵みを春につなげる作業だ。わらは立派な有機肥料になる。土にすき込み、時間をかけて微生物に分解してもらって堆肥化し、来春に植える苗の養分にする。
さらに、「分解がうまくいくと雑草が悪さするのも抑えられる」という話を最近知った。出どころは、松本市波田の公益財団法人自然農法国際研究開発センター。いい状態の田んぼに苗を植えると、雑草を圧倒して育つ。ごく簡単に言うと、そういうことらしい。
同センターの方法論には、数値の裏付けがあるのが特徴だ。例えば、分解をよくする鍵の一つは春までの土中の積算温度とみて、土地ごとに気象台のデータを参考に、標高も考慮して、秋起こしのタイミングを決める。
秋起こし自体は、昔からの基本技術だ。その方法の一般化や効用の見える化を同センターは試みていると言える。「温故知新です」と三木孝昭さん。農薬を使う稲作にも生かせることはあるのではないかとみる。
中信の気候や実家の標高からすると、10月下旬の秋起こしというのは少し遅いようだ。三木さんが薦める来春時点のわらの分解率は50%。その頃、うちの田んぼのわらはどの程度になっているのか。その後の田んぼの状態や苗の育ちはどうなるのか。実験気分で観察してみるのも面白そうだ。将来取り込めそうな技かどうか考えながら。