ユニーク「木材の移動型ショールーム」

大町市のJR信濃大町駅前で7日に開かれたマルシェ。食べ物の屋台に交じり、木の板が多数立てかけられた1台の軽トラックが目を引く。売っているのは、スギやヒノキ、ナラやカエデといった、種類も大きさも木目もさまざまな木材だ。
100%地元産の希少な木材を展示、販売する「モバイル木材ショップ」。大町市八坂の香山由人(よしと)さん(60)が始めて、ちょうど1年になる。
27年前に神奈川県内から移住。この地での生業(なりわい)として林業に出合い、森と関わって四半世紀が過ぎた香山さん。地域の森林を守りながら、衰退する林業を健全な経営に戻すために、自分に何ができるのか─。その一つの手段として思い付いたのが、「木材の移動型ショールーム」だった。ユニークな店舗に込めた強い思いとは。

イベントに出店木の良さ伝えて

大町市で森林コンサルタントや木材活用を手掛ける会社「山川草(さんせんそう)木(もく)」を営む香山由人さん。1年前、軽トラックを改造し、木材をどこででも展示販売できる「モバイル木材ショップ」を立ち上げた。月1回程度、松本市のソマミチが開く林業関係のイベントなどに出店してきた。
この日は木材の提供などでもゆかりのある「北アルプス国際芸術祭」が開かれている大町市の駅前で初出店。DIYや工作の材料になる端材から、長さ2メートルの住宅用建材のサンプルまで、この地で育つ10種類の木から切り出した木材を並べた。すべて「いつどこで誰が切ったのか分かる木」だ。
不思議そうにのぞき込む客、木材を手に取ってみる客。「100%地元の木なんです」と話し掛け、それぞれの特長などを説明する香山さん。「不特定多数への周知になった。即、売り上げにはつながらなくても、いろんな人と接することで、この地の木の良さを伝えられる」と手応えを語った。

森を守り林業を健全な経営に

香山さん は、神奈川県出身。大学時代はフィリピンで井戸を掘るNGO活動に没頭し、そこで知り合った妻の実家がある大町へ移ってきた。「身一つで生計を立てるため」林業の道に入り、地元の会社でイロハを学んだ。「自然と共生した森づくり」の理念は継承しつつ、経営が厳しい林業をビジネスとしても成功させたいと2000年、企業組合「山仕事創造舎」を仲間と設立。森林保全や伐採を事業とし、軌道に乗せてきた。

流通ルート確保欲しい人に提供

活動するうちに、親から山を継いだ所有者が管理に困ったり、地元の木を住宅などに使いたくても流通システムがないなど、地域の林業を取り巻く課題にも直面した。「大町は総面積の88%が森林で木の種類も多彩だが、国内の他地域や木曽などと比べるとブランド力に欠ける」と 香山 さん。林業と個人をつなぐ窓口として、さらに地元材の流通ルートを確保し、欲しい人に提供するための拠点として、軽トラによるモバイル木材ショップ店を思いついた。
「近代化の中で離れてしまった山と人との距離を縮めたい」と、地元の小学校の授業や首都圏からの修学旅行で子どもたちを森に案内し、木工工作を指導するなど、森林教育にも力を入れる。昨今のコロナ禍による輸入材の不足、脱プラスチックやSDGsの機運の高まりも、活動の追い風となってきた。
「長期的な目標は、やっと育ってきた地元の木を住宅や木工品、燃料として使い、資源を循環させていく持続可能な社会づくり」と先を見据える。
次回出店は、21日に大町駅前、28日に松本市の美鈴湖近くで開く「もりの国まつり」。連絡はメールで。