【小林千寿・碁縁旅人】#16 島の囲碁熱

碁会所「棋羅」で島民の皆さんと(筆者は後列右から2人目)

八丈島と黄八丈

8月13日から始まった小笠原諸島の海底火山噴火で生じたとみられる軽石が、2カ月かけて1000キロも離れた沖縄などに辿(たど)り着き、大変なことになっています。今後、一部は黒潮に乗って太平洋側を北上する可能性もあるとか。
日々の生活で「黒潮」を意識することはないですが、伊豆諸島・八丈島へ囲碁を教えに行った時、日本文化にも影響している可能性があると教えられ、ハッとしました。織物の「黄八丈」の「夢工房」を見学し説明を伺った時です。
島には昔から高貴な身分の流人が流され、こうした都人がもたらした絹と、「コブナグサ」というイネ科の植物から得られる鮮やかな黄色の天然染料が重なり、黄八丈になったようです。
そして驚きは、唯一それと同じ染料で染められた黄色の織物を昔から、中国・四川の高貴な僧が身に着けていることです。その事実から、四川と八丈島を繋(つな)いだ「もう一つのシルクロードは黒潮ではないか」との説を聞いて長い歴史のロマンを感じました。
元々、八丈島に行くことになった所以(ゆえん)は、島の囲碁熱、囲碁レベルが高く、“碁縁”ができたからです。最初は1970年代に欧州囲碁旅行が企画され、故小川誠子七段と私を囲んでアマチュアの方々と欧州を10日間回った時に、八丈島からお二人が参加されました。お二人は日頃いつも碁を打たれているのに、旅行中も移動時は外の景色に目も向けずに打たれていました。
2013年に初めて八丈島の囲碁ファンを訪ねました。そこにはアマ強豪の故津村勲夫氏が建てた碁会所「棋羅」があり、島の人たちが自由に出入りする楽しい場です。
そして、昼は「島寿司(ずし)(たれに漬けたネタ、からしを使った寿司)」、夜はバナナの葉に載せられた刺し身、焼き魚、海藻。そして明日葉に八丈焼酎。それを機に3回訪問し、次の機会を楽しみにしています。
(日本棋院・棋士六段、松本市出身)