里の秋と季節外れの「蝶」の雪形(安曇野市穂高牧)

蝶ケ岳の稜線付近に浮かび上がる季節外れの白い「蝶」の雪形=ニコンD5、
ニコンEDAFVR ニッコール80~400ミリ、11月19日午前7時

黄葉と白い羽 不思議な光彩

11月19日朝、安曇野市穂高牧から蝶ケ岳(2677メートル)の稜(りょう)線に羽ばたく白い「蝶」の雪形が浮かび上がった。里を彩る真っ盛りのイチョウの黄葉との共演。季節外れの珍しく不思議な光彩だ。
例年だと、初冠雪で「蝶」の輪郭が現れ、続く新雪に埋もれて姿が見えなくなる。だが、今季は既に6月上旬の整った姿を連想させる姿。温暖化の影響か、異常気象か?日中の気温上昇で、雪形をかたどるハイマツ上の雪が解けて青黒く見え、白い「蝶」の形を鮮明に浮かび上がらせている。半世紀以上、雪形を撮影しているが、この時季の光景としての「蝶」は記者の記憶にはない。
犀川堤防から「蝶」の雪形を仰いでいると、安曇野に住んだ日本の雪形研究第一人者、田淵行男さん(1905~89年)を思い出した。田淵さんのカメラ目線で今回の「蝶」の雪形を撮ろうと、穂高牧へ急行した。戦火が激しくなった1945年3月、東京から田淵さんが疎開してきた場所だ。そこから見る「蝶」の雪形は指呼のうちにあるようだ。
田淵さんが81年に「山の紋章雪形」を出版する際、雪形情報の収集で協力した。75年6月4日、田淵さんの誕生日にした雪形談議が忘れられない。「例年、雪形の『蝶』は私の誕生日に整う」。そううれしそうに話した田淵さん。その笑顔が、撮影する「蝶」の雪形にオーバーラップした。
(丸山祥司)