
「社員は会社の宝であり財産。大切にしながら磨くときは磨かないと」。こう話すのは今年、創業119年を迎えた建設業、村瀬組(松本市里山辺)の5代目、村瀬直美社長(71)だ。この老舗企業が将来の発展に向け、今最も力を入れているのが社員の「健康」だ。
社員の健康と職場環境改善
「この業界には『3K職場』のイメージがまだあり、なかなか若い人材が入ってくれなかった」。この課題を解決するために取り組んだのが「社員の健康増進」と「職場環境の改善」だ。
2019年、従業員の健康管理に経営的な視点で、戦略的に取り組んでいる法人として認める経済産業省の「健康経営優良法人」の認定を受けた。
松本大学(同市新村)と連携。全社員が体力テストを受け、自身の健康状態を把握。それぞれに見合った体力向上のメニューを作ってもらったほか、歩数計を使って日々の運動量をチェック。その結果を見える化した。
「『社長には負けたくない』など、みんなで競い合うことで運動への意識が高まった」と手応えを実感する。
朝食を取ることの大切さを知った社員からの「もっと手軽に朝食を食べたい」の要望に応え、会社の敷地内に栄養食品の自動販売機も設置した。
「めりはりのある生活が、仕事にも好影響を及ぼすのでは」。職場環境の改善の具体策として取り組んだのが残業を減らすことだ。
残業を申告制とし、手当はあらかじめ支給。年数回の社員との面接で残業時間などを精査。「目に余るほど」残業の多い社員に対しては「それが能力」として手当を減額したり、仕事内容を見直したりする。
「残業が生活の一部になっていては駄目。家族とのだんらんは精神的健康にもいい」と力を込める。
2年近くに及ぶコロナ禍の影響は「今のところない」が、「コロナ対策で国がこれだけ金を使って、今後、一番に影響が出てくるのが公共事業」と危機感を持っている。
今夏、所用で約1カ月、海外に滞在。一度も出社しなかった。そこには「社長がいなくても会社を回せ」という願いもあった。
帰国後、平穏な会社を見た。「社員が自ら考え、自分の会社を担えるようになった。これならコロナ後の心配も少ない」と、ほっと一息。ただ海外に滞在中、一度も会社から連絡がなかったことには「少し寂しかったけどね」と本音を漏らした。
【プロフィル】 むらせ・なおみ1950年、松本市出身。松商学園高校、日本大学理工学部卒。都内の設計会社に1年間勤務した後、77年村瀬組入社。90年社長就任。松本市平田東在住。