
安曇野市堀金烏川の木版画作家小平彩見(さいみ)さん(49)は、中学2年生の息子(14)と小学6年生の娘(12)を育てるママです。東京から移住して11年目。子育てをしながらイラストレーターとして創作活動をしています。
子との時間大切に創作
★信州との縁
横浜市出身の小平さんは、子どものころから絵を描くことが大好き。高校生の時に美大を目指して油絵を習い始めます。武蔵野美術大油絵学科に入ると他のことにも挑戦したくなり、3年生の時に版画コースを選びます。
卒業後は安曇野ちひろ美術館(松川村)に就職。さまざまな芸術に触れるうちに、制作意欲がふつふつと湧いてきます。このころ出会った夫と結婚、東京で暮らすことになり退職します。
2001年に東京で初個展、03年から東京と安曇野で毎年個展を開く一方、子ども向けの月刊誌や書籍の挿絵、イラストを手掛けます。太宰治「走れメロス」の木版画は東京書籍の中学2年国語教科書(2016年度)に採用され、本年度の教科書でも使われました。
★仕事と子育て
息子を出産後の入院中も仕事の依頼を受けたという小平さん。
「『やらなきゃ』という思いで突き進んできました。制作するエネルギーを途切れさせないようにと必死だったのかもしれません」
子どもが入園するまでは実家の母親が週1回手伝いに訪れ、その間は自分自身を見つめ直す貴重な時間だったと言います。
2011年、娘の百葉(ももは)さんが1歳半ごろに夫の古里、安曇野市に移住します。二度とない子どもとの時間を守るため、そして生活費の足しにと昨年まで7年間、午前3時に起きて新聞配達をしました。今は昼間に週2~3日パートで働き、体力維持のため4時に起きてジョギングをしています。
百葉さんが幼い時は少し離れるだけで泣くため、家でおんぶをして制作を続けました。手がかからなくなった今、日常から制作モードに切り替えるきっかけは、学生時代から好きなジャズとクラシック音楽を聴くこと。家事を終えてアトリエに入ると音楽をかけ、創作の世界に集中します。
「木版画は好きだけど楽しいだけではない。一生をかけて表現したいものを追求していきたい。私の作品を見た人がわくわくしたり、じんとしたり…。何かを感じとってもらえたらうれしいです」
★夢
朝が得意な長男は、小平さんと一緒に早起きして朝勉を、百葉さんとは週末に料理を作ります。昨年の夏は庭のイチジクがたくさん取れて、一緒にジャムを作りました。
小平さんが幼いころ、母親は毎晩絵本の読み聞かせをしてくれたといいます。「リクエストすれば10冊でも読んでくれました。そんな大好きな絵本を自分で作るのが昔からの夢で、ようやく描き始めています。なかなか進みませんが必ず完成させます」
小平さんの版画やポストカードなどは「手仕事商會すぐり」(松本市中央3)で販売。作品展などの情報はウェブサイトで。