「三九郎」。全国的には「どんど焼き」と呼ばれる慣習が、中信地区ではこう呼ばれています。
信州に移住してきてよかったなと思うのは、このような昔からの行事が地域の方たちのおかげで伝承されているのを知る時です。しかも子どもたちばかりではなく、世代間で楽しめる行事もセットになっています。
三九郎は前年のうちに作られます。以前は、お焚(た)き上げするまではやぐらは子どもたちにとって「秘密基地」で、トランプなどのゲームで遊んだと聞きます。
燃やす当日、私の住む地域では、公民館で婦人部と呼ばれる女性たちのグループが、子どもたちと一緒に繭玉をつくります。燃やす時に柳の枝を忘れないように注意を―と促されます。
さて、点火です。この三九郎の火にあたると若返ると言われます。ご年配者が火の近くにいるのは寒いだけではないのかもしれませんね。書き初めを火にくべる子どももいます。高く舞い上がると書の腕前が上がると信じられているからです。百姓の私には「火の粉が高く舞い上がるほど豊作が期待できる」という言い伝えも気になるところです。
さあ、お楽しみの時間。燃えて倒れたご心棒をよけて、灰で繭玉を焼きます。まだおきの火が熱くて近寄れない時は、柳の枝の出番です。枝の先に付けた焼きたての繭玉の香ばしくておいしいこと。伝承していく責任を感じた瞬間です。
【中村小太郎・駆け出し百姓の自然農奮闘記】#20 火の粉の舞いに豊作願う
- 2022/01/15
- 駆け出し百姓の自然農奮闘記